英語圏を含む西欧には、いわゆるサイン(signature)を重視する文化があります。特にアメリカは高度なカード社会として知られます。短期滞在でもきっと自筆署名をしたためる機会があります。
そこで気になってくるのかサインの書き方。
英語圏でサインする場合、サインも英語で書くべきか? 英語で書くとすれば姓名の順序はどちらが標準的か? 読みやすく楷書で書くべきか、それとも模倣されにくいよう草書で書くべきか? ……等々、細かい疑問がいろいろとわき起こってきます。
サインの基本的な考え方と、おおまかな心得について学んでいきましょう。
→英語で自分の名前を書く場合に知っておくべき書き方の基本
→海外での買い物に絶対かかせない英語の「料金の聞き方」
いわゆるサインの基礎知識
サイン(自筆署名)は信頼と信用そのもの
欧米におけるいわゆるサイン(自筆署名)の位置づけ・効力・信頼性は、ほぼ日本における印鑑(印章)の立ち位置になぞらえて差し支えないでしょう。
今日でも署名より印鑑の制度が多く利用されている国・文化圏は日本くらいのものですから、欧米に限らず世界の大半が署名文化であると捉えておいた方が実情に近いでしょう。
自筆署名は信頼そのものです。裏を返せば、署名をしたためる行為にはその分だけ大きな責任が伴います。求められるまま軽率に署名してしまったりすると、のっぴきならぬ契約トラブルを招くおそれもあります。
必要な場面で出し惜しみする必要は全くありませんが、「署名は実印や捨印に等しい」という自覚をもっておきましょう。
ちなみにクレジットカードを持っていることも当人の信用度を担保する手がかりと位置づけられます。これは日本と同様です。
自筆署名は「意思表示」と「自己同一性」の証明手段
署名は本人の意思表示の印として機能します。署名がしたためられることで本人が明確に意思表示をしたことを示し、契約が発効するわけです。
もし手続き等を第三者に委託する場合は、委託手続き用の書式にやはり署名を行って正式な代理人として手続きを進めてもらうことになります。
また、署名は、署名者が他でもない本人であることを証明するものとしても機能します。自筆署名は、いわば本人にしか再現できない記号です。署名の筆跡などに不審な部分があると、カードを不正利用しているんではと怪しまれる可能性があります。
日本人の海外旅行者にありがちな話として、クレジットカード裏面の署名欄には漢字で氏名を記しているのに、伝票にはローマ字で署名をしたためたことで、署名が違うじゃないかといって怪しまれるという話があります。
あらゆる場面で自筆署名が求められる
海外で署名が求められる場面は多岐にわたります。クレジットカードで買い物する場面、契約書や公的な書類を作成する場面、郵便物の受け取り、あるいは手紙の末尾に一筆添える場合など。
海外で身分証明を(アナログな方法で)行う場合、ほぼ必ず署名する機会があると考えておいても、あながち間違いではないでしょう。
英語の sign の意味用法は「サイン」とは異なる
英語の sign には名詞および動詞としての用法があります。
動詞としては「署名する」という意味があり、日本語の「サイン」に通じる意味合いで使えます。ただし、sign は名詞の用法では「記号」「合図」「表示」「標識」といった意味を主としており、「署名」の意味では用いられません。
日本語の「サイン」に相当する(署名という意味の)英語は signature /sɪɡnətʃə/ です。
著名人が色紙や記念品などにしたためる「サイン」はまた別で、これは signature ではなく autograph と呼ばれます。
サイン(signature)の書き方の基礎
英語で書くべきか、漢字で書くべきか
「サインは英語で書くべきか、それとも漢字で書くべきか」という問いに答えるとすれば、回答は「どちらでも可」、「書きやすい方を選べばよい」という答えになるでしょう。
ただし、サインの第一の意義は身分証明です。サインの書き方は身分証明書と同じ書き方・書体を意識して選ぶと無難です。
たとえば、買い物でクレジットカード決済する際には、カード裏の署名欄に書いたサインと同じ書き方で。ホテルのチェックインに際しはパスポートを併せて提出する場合が多いためパスポートに記した署名に揃える書き方で、と考えましょう。
そうすると、日本人ならだいたい自ずと漢字表記に傾いてくるのではないでしょうか。
英語圏だからといって漢字の署名が使えないということはありません。文字というよりは文字ベースの一種の記号として識別されると考えておきましょう。文字そのものが読める代物である必要は特にないのです。
日本国内で作成するクレジットカードの署名欄も、漢字の楷書で記すべしと決められているわけではありません。本人と識別できる書き方ができていれば、表記はどんな風でも咎められません。
クレジットカードの署名は漢字表記で、パスポートのサインは英語表記、というような、サインの表記が統一されていない場合、ことによっては本人確認の際に行き違いが生まれるおそれがあります。部分的に英語表記の署名を使い始める、という試みには、細心の注意を払う必要があるでしょう。
丁寧に書くべきか、崩して書くべきか
サインの書き方は、模範的な字体を意識して丁寧に記す必要はありません。サインが身分証明として機能する以上、模倣しやすい(偽造しやすい)サインはむしろ危険です。
字形の崩れがサインとしての機能を損うことはありません。
つまり、第三者には容易に再現できないような、そして自分は容易に再現できるような、自然な書き崩し方でサラッと書けるような書き方が、サインとしては理想的です。
外国の方々のサインの事例を見ると、しばしば(というか結構な確率で) 文字の判別すら不可能ではと思われるようなミミズ文字のサインに遭遇します。それでよいのです。
考え方としては「署名」よりもむしろ「花押」を意識すると、この辺の要領が掴みやすくなるような気もします。
無理に崩して書く必要はありません。自分で再現できないサインは考えものです。理想は、手癖を活かして筆跡に特徴が出る書き方。しかし強いてそのように意識して書くよりも、普段通りの書き方でさらりと書いた方が大抵うまくいきます。
形式もざっくばらんでよいが限度もある
サインは必ずしも姓名フルネームで記さなくてはいけないわけではありません。名字だけの署名でも通用し得ます。ただし、名前(ファーストネーム)だけのサインは不可とされる場合が多いようです。
ファーストネームをイニシャルで表記するサインは許容されることが多いようですが、姓名どちらもイニシャルだけの2文字のサインとなるとまず認められません。
図形やイラストもやめておきましょう。署名(自分の名前の表記)の範疇を逸脱しないように。
代理でサインするとき
担当者が不在で代理でサインする場合には少し注意が必要です。代理人がサインしたということがきちんと伝わらないと責任問題にも繋がりかねません。
例えば佐藤さんが鈴木部長の代理でサインをしなければならないとき、鈴木部長の名前が印刷された書類の前、もしくは上部のサイン欄に「自分の署名 For」と書きます。Forの代わりにOn behalf ofを用いることもできます。
また、p.p.という表現を使うことも多いようです。ラテン語で「per procurationem(代理で)」という意味を持ち、この場合は自分の署名の前にp.p.を置きます。「p.p. 自分の署名」の下に印字された上司の名前が来るようにしましょう。
ビジネスメールの「署名欄」
ビジネスメールの末尾に置く「署名欄」ですが、英語では記載順序に少し差が見られます。テンプレートを覚えてしまえば単純なものなので、正しい型を頭に入れておきましょう。
→英語ビジネスメールの「署名欄」の正しい書き方・デザイン・フォーマット
「サイン」の求め方
相手にサインを求める場合。
まずは「サイン」に対応する英語の表現に気をつける必要があります。念書に求める署名は signature、有名人に「サインください!」と言う場合は autograph です。
求め方の具体的フレーズも場合によって違ってきます。
念書にサインを求める場合
書類や契約書にサインを求めるときは、名詞の signature を用いるか、あるいは動詞の sign を使って表現できます。
サインを記す対象として、document(書類)、contract(契約書)など語と併用されることが多いでしょう。
ここに署名してください
下に署名していただけませんか
書類にサインをいただけますか
目を通したあと、契約書にサインをお願いします
サインの癖が強いため文字が判別できず、名前が確認できないということを避けたいときはこう加えるといいかも知れません。
サインの下にブロック体でハッキリと名前を書いてください
色紙にサインをねだる場合
有名人に色紙にサインを求めるときは、autograph と表現します。
サインをください
サインをいただけますか
握手とサインをお願いしてもいいですか
大ファンです サインが欲しいです