日本語表現に「アバウトな~」と形容する言い方があります。英語の about から転用された表現です。「アバウトな性格」とか「アバウトな計画」とか。おおむね「大まかな」「おおざっぱな」という意味合いです。
日本語表現としての「アバウト」は、国語辞書にも記載されているれっきとした語ではありますが、同時に、英語の about の本来の意味・用法とはだいぶ違います。
英語では rough、broad、 sloppy などの語で表現できます。意味・ニュアンスに応じて使い分けましょう。
「アバウトな見積もり」なら rough、broad
計画や見積もりがアバウト、という意味合いなら rough や broad のような語で表現すると良いでしょう。日本語なら「大まかな」という程度の言い方です。
rough
rough /rʌf/ は基本的に「粗い」「手荒な」といった意味の語ですが、構想・構図などを形容する場合は「ザックリとした」という意味合いになります。ただし、いわゆる形容詞の限定的用法に限ります。
- rough outline (概略)
- rough estimate (概算)
- rough drawing (素描)
- rough draft (下書き)
broad
broad の基本的な意味合いは「(幅が)広い」、そして限定用法では「大まかな」「おおよその」のといった意味で用いられることがあります。
- broad outline (おおざっぱな概要)
単語の根底的な意味を踏まえると、rough は「まだ緻密でない」、broad は「まだ絞り込んでいない」というニュアンスが中心と言えそうです。
broad には「心が広い」「細かいことにとらわれない」という意味合いもあります。これも、一種の「アバウトな性格」を表現する言い方に含まれるかも知れません。
sketchy
sketchy は sketch+-y で「スケッチのような」「素描段階の」という意味の形容詞で、「アバウトな」に通じる意味合いがありますが、この語は特に「不完全な」「上っ面だけの」というネガティブなニュアンスを多分に含みます。
否定的な意味合いで「だんぶアバウトな計画」と述べる場合には、ちょうど良いでしょう。
sketchy の「不完全」という意味合いは口語的な表現です。建設的な議論を目指すなら、たとえば「もっと詳しく計画すべきでしょう」のような前向きな観点で指摘した方がよいでしょう。
「アバウトな性格」なら anyhow、careless、slack、loose
人柄や態度がアバウトという場合には、anyhow や careless 、あるいは slack のような語が使えそうです。
anyhow
anyhow は副詞で、「どんな風でも(結構です)」のような意味合いで用いられたり、文章全体を形容する副詞として(接続詞的に)「どのみち」という意味合いで用いられたりします。
動詞に係る場合、「ぞんざい」「いいかげん」「適当」という意味合いが出てきます。
- work anyhow (テキトーなしごとをする)
- all anyhow (イイカゲンになっている)
careless
careless は基本的には「不注意」「軽率」「ウッカリ」といった意味合いの語です。
日本語の「ケアレスミス」を想定すると、失敗のニュアンスを思い浮かべてしまいますが、文脈によっては「気取らない」「無頓着な」「気楽な」あるいは「ぞんざいな」という意味合いでも使えます。
- careless person (ぼんやりした人)(うっかり者)(軽率な人)
- careless attitude (無関心な態度)
- careless life (のんきな生き方)
何事かについて「無頓着」と述べる場合には、careless about (something) という言い方が一般的です。
slack
怠慢さを主なニュアンスとした緩さ・いい加減さは、slack と形容してもよいでしょう。「緩慢な」「しまりのない」「たるんだ」というニュアンスの形容として使えます。
half‐baked
half‐baked はパンや焼き菓子の「半焼け」「生焼け」の状態を指す語です。転じて、計画などが十分に煮詰まっていない、不完全あるいは未熟なさまを指したりもします。「生半可」とも訳せます。
もっと突き詰めろよと非難したい種類のアバウトさを表現するには、まずまず適していそうな表現かも知れません。
half‐baked は基本的にネガティブな表現です。加えて、思考が未熟な馬鹿者・未熟者という意味合いを暗に含みます。
crude
crude は「粗製」あるいは「つくりが雑」「ぞんざい」という意味合いで用いられる形容詞です。他方で「粗野な」「洗練されていない」という意味でも用いられます。
loose
loose は人物の性根や表現などを形容する場合には「しまらない」「散漫な」「不正確な」「漠然とした」といったニュアンスが生じます。
特に文章表現や思考を形容する場合は「おおざっぱ」「不明瞭」という意味合いが中心です。アバウトな性格、と表現する言い方としては最も日本語のニュアンスに近いといえるかも知れません。
- loose talk (おおざっぱな話)
- loose translation (おおざっぱな訳)
- loose thinking (雑な考え)
ただし、loose には「不貞」「ふしだら」という意味合いもあります。女性を「アバウトな性格の人」というつもりで loose woman のように形容すると、あらぬ誤解を招きかねないので注意しましょう。
アバウトという語彙を捨てて考えた方がよさそう
ざっと対応する表現を考えても、コレといった表現が見つからない。「アバウトな」という語を手がかりに考えると、そんな行き詰まりを感じてしまいます。
《アバウト → 考えがおおざっぱ → loose 》とか《アバウト → まだ練り込まれていない状態 → rough 》というように、類推してニュアンスの近い表現を探すことは一応できそうですが、苦労するわりに得るものがあまりありません。
いっそ「アバウトな」という表現を捨てて、まったく別の語彙で趣旨を言おうと考えるように思考を働かせましょう。その方が日本語も洗練されますし、「日本語に頼らない英作文」の考え方も身につきやすくなるはずです。