英語の「動物が登場する」イディオム・慣用表現集

ことわざや慣用句は、その言語文化における感じ方・考え方が凝縮された独特の世界です。普遍的で共感しやすい表現もあれば、なかなか思いつかないハッとさせられる表現もあります。英語にもそんなさまざまなことわざ・慣用句があります。

慣用表現にも色々ありますが、たとえば動物(animals)を引き合いに出して語られる表現などは、各動物に対するイメージや接し方の違いなどが垣間見える好例です。

動物を使った表現にも膨大な種類があります。ひとまず、パターン別にいくつかの例をみていきましょう。

ほぼ難なく意味を察せる英語の慣用表現

英語の慣用句の中には、日本語でもよく知られる慣用句と同じ内容・言い回しの諺も少なからずあります。ほぼ対訳といえるものも見られます。

含蓄だけでなく言い回しまで日英で共通している諺は、西洋のことわざが日本に伝わって定着したものである場合が多々あります。英語がオリジナルとも限りません。

kill two birds with one stone (一石二鳥)

日本語の「一石二鳥」は近世イギリスで成立した英語のことわざに由来します。つまり kill two birds with one stone がオリジナルです。

一石二鳥は「ひとつの石で2羽の鳥をしとめる」という意味。(2羽の鳥が岩にとまっている様子を述べているわけではありません)

ちなみに「一挙両得」は漢語(「晋書」)に由来する故事成語です。

鳥(bird)を用いた英語フレーズ・慣用句

foxy / as sly as a fox (狐のようにずる賢い)

キツネは西洋の民俗伝承にもよく登場する動物で、おおむね狡猾なイメージで語られます。イソップ寓話の「からすときつね」や「狐と鶴のご馳走」に登場するキツネは、悪知恵の働くイジワルなキャラクターです。

日本でも、狐は狸と同様に人を欺す伝統的イメージがあります。

キツネ(fox)を形容詞化した foxy は、女性のセクシーさを形容する意味合いもあります。東洋でもキツネは艶容な女の代名詞として用いられることがあります。たとえば妲己や玉藻前は妖狐です。

キツネを使った英語フレーズ

eat like a horse (馬のように食う)

いわゆる「鯨飲馬食」に通じる英語フレーズ。

ちなみに、英語で「大酒飲み」を指す言い方(沢山あります)のひとつに toper という語があります。 tope はヨーロッパ近辺に生息するサメの呼び名です。

lone wolf (一匹狼)

狼は北半球に広く生息する動物で西欧でも日本でも古来から馴染みのある動物です。

lone wolf と「一匹狼」は意味的に一致する表現ですが、両表現の由来ははっきりしません。狼の生態上、基本的に群れるのに単独で行動する個体もしばしば観察されるところですから、集団に溶け込まず単独行動を好む者を指す言い方としてイメージが湧きやすいのでしょう。

monkey see, monkey do (猿が見てマネをする)

Monkey see, monkey do! は20世紀アメリカ辺りで定着したフレーズとされています。「猿まね」というよりは「馬鹿がマネする(から止しなさい)」というような意味合いで使われる言い方です。

サルは姿も行動も人間に似たところがあり、ヒトよりは劣って見える存在です。洋の東西を問わず、人間を拙く模倣した存在というイメージで語られます。

なおヨーロッパ圏にサルはほぼ生息していません。

英語イディオムに見る西欧の「猿」のイメージ


意味はひとまず推察できる英語の慣用表現

日本語に対応した表現は見つけにくいものの、使われている動物のイメージから意味が推測しやすい表現です。そのため、自分にとって新しい表現でも意味を理解することが出来、会話にも使用しやすいです。

chicken out (ビビる)

chicken(鶏)は臆病者=いわゆるチキン野郎という意味で用いられることがある名詞または形容詞です。動詞としては out を伴った句動詞の形で、「怖じ気づいて止める」という意味で使われます。

ちなみにチキンレース(chicken race)は和製英語です。英語ではchicken game あるいは game of chicken と表現します。

鳥(bird)を用いた英語フレーズ・慣用句10選

clam up (押し黙る)

clam は二枚貝のこと。ぴったり閉じた貝の様子は、たしかに口をかたく閉ざして黙りこくる様子を連想させます。

日本語でも一応、口を閉ざすことを指して「貝になる」という表現が国語辞書に掲載されています

hold your horses (待て待て落ち着け)

hold one’s horses の直接の意味は「自分の馬を制しておけ」。転じて、「ちょっと待て」「落ち着け」「はやるな」という呼びかけ文句に用いられます。

日本語にも似たような慣用表現で「手綱を締める」という言い方がありますが、これは他人があらぬ方向へ逸れていかないように律するさまを喩える言い方です。英語の hold one’s horses は自分の心の内を奔馬に喩えた表現。そういえば日本語にも「心の馬」という表現があります。

until the cows come home (とても長い時間)

いわゆる「牛歩」に通じる表現。牛は歩みがトロくていつまでも帰ってこない、という意味合いで「ずっと」を表現します。


前知識がないと理解困難な英語の慣用表現

動物を引き合いに出したことわざや慣用表現の中には、文面からはまず意味を推察できない代物もあります。たいていの場合、動物そのものの姿や生態よりも、その動物にまつわる文化的背景に負うところの多い表現です。

birds and bees は「性の知識」

(the) birds and bees は子どもに教える性の知識、いわゆる性教育の隠喩です。鳥も蜂も必ず複数形を取ります。

性や生殖について初めて教える場合、鳥や蜂の習性を引き合いに出す教え方が定番だったので、そのまま鳥や蜂が性知識の代名詞になったという背景があるようです。

dog days は「夏真っ盛り」

(the) dog days は、いわゆる「盛夏」を指す表現です。

夏真っ盛りの時節には、おおいぬ座のシリウス(Sirius)が天上に輝きます。dog はシリウスの通称 the Dog Star にちなんだ呼称です。

ちなみにシリウスは和名(というか中国名)では天狼星と呼ばれます(「北斗の拳」世代に限って常識)

cash cow は「金のなる木」

cash cow は、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)において「金のなる木」と訳され定着している語です。PPMにおける「金のなる木」は、企業において最も安定して資金を生み出せる事業分野です。

cow は牛(特に乳牛)を指す語。乳牛は金銭価値を生み出す牛乳を継続的に生産してくれるありがたい存在です。すなわち cash cow は「財源」「ドル箱」のこと。

ちなみに、cow は単に雌牛を指す場合にも用いられるので、明示的に「乳牛」を指す場合には dairy cow という表現が使われることもあります。dairyは酪農に関する物事を指す語。daily (毎日の)ではありません。

Cat got your tongue? は「どうして黙りこくってるのかな」

オドオドして黙ったままの人(主に子ども)に、どうしてそんなに黙っているんだい?と話しかけるフレーズです。直接の意味は「猫が君の舌を取っちゃったのかな」というもの。おどけた調子でやさしく問いかける一言です。

慣用表現を通じて英語の「どうぶつ観」を知る

ことわざや慣用句は大抵、こなれた表現というか、気の利いた表現というか、意思疎通に必須ではない部類の表現です。英会話スキルの習得に当たっては必ずしも優先すべき事項ではないかも知れません。

動物を引き合いに出す慣用表現を知ると、動物に投影されたイメージを通じて、文化的背景やものの見え方の接することができます。あるいは、語源を辿ることで日本語の表現が西洋文化に負っていたと気付くこともあるでしょう。

(日本語には「豚に真珠」っていうことわざがあるよ、なんて海外で自慢げに言ったら、微妙に恥ずかし思いをするかもしれません。それ聖書の言葉じゃん……)

ことわざや慣用句は現在に伝わる古人の叡智でもあります。語学学習の足しになるだけでなく、教養としても十分に学ぶ価値があります。息抜き代わりに深めてみてはいかがでしょうか。


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