動物の名前を英語で言えますか?と漠然と問われたなら、犬に猫に、パンダにライオン、ラクダやコウモリと、ある程度はスラスラと挙がるでしょう。では、更に一歩進んで「アリクイ」や「シロクマ」のような動物はどうでしょう。英語名まで把握している方はきっと多くはないはずです。
日常会話で話題にすることもなさそうなマイナーな動物の英語名なんて、ほとんどトリビアの世界かもしれませんが、いざ見比べてみると意外と興味深い知見に遭遇して面白いものです。馴染みのある動物でも英語の慣用句で意外な使われ方をしていたりして、知的好奇心が刺激されてやみません。
→英語の「動物が登場する」イディオム・慣用表現集
日本語名と英語名がかけ離れた動物
カバ → hippopotamus
ヒポポタマス。学名(ラテン語)をそのまま英語名として使用しています。元々英語圏には生息していない動物。
名前が長いので、短縮系として hippo と呼ばれることもあります。
日本がカバをまともに知ったのは近代以降ですが、日本語のカバは「河馬」でありれっきとした日本語名です。先人が上手く訳してくれたのでしょう。
モルモット → guinea pig
「ギニーピッグ」のように発音します。直接的な意味は「ギニアのブタ」。
いちおう齧歯類(ネズミの仲間)ですが、どうも丸々とした姿からブタ扱いする呼び名が定着したようです。ドイツ語フランス語といった西洋の他の言語でもブタ扱いされています。
guinea は「ギニアの」という意味がある語ですが、モルモットはギニア周辺には生息しません。
日本語の「モルモット」は江戸時代頃に伝わった外来語に由来するようです。よく似た発音の marmot (マーモット)という英語名の小動物がいますが、これはリス科の動物でモルモットとは別物です。
モルモットは英語圏でも実験動物として用いられており、guinea pig にも「実験台」と言う比喩的な意味があります。
サイ → rhinoceros
サイの英名も学名(ラテン語)に由来します。 rhino と短縮されることがあります。
サイはインドや南アジア地域にも生息しており、漢字文化圏では「犀」として知られていました。漢方ではサイの角が珍重されてきました。
「シロサイ 」は white rhinoceros、「クロサイ 」は black rhinoceros と言います。
シロサイは地面に生える背の低い草を食べるために適した横に広い口の形をしています。そのため当初は「 wide なサイ」と命名された、ハズだったのですが、どこかで white と読み間違えられ、白サイになったと言われています。その後に発見されたクロサイは、白との対比で黒と命名されたそうな。
シロクマ → polar bear
polar は「極地の」という意味。
日本語でも「白熊」はあくまで通称で、正式にはホッキョクグマと呼ばれます。
イノシシ → wild boar
boar は(雌)豚を指す語。野生の豚。単に boar という場合もあります。あるいは wild pig ともいいます。
イノシシ(野生種)を家畜化した動物がいわゆる豚なのですが、家畜化された豚が人間の生活とあまりに密接に関わっていたため、逆にイノシシを「野生の豚」と呼ぶような事態になっています。
日本語の「いのしし」はイノシシやブタの類を総称する「猪」(い)に由来する古い言葉です。
タヌキ → raccoon dog
raccoon はアライグマを指す語です。見た目の類似性(よく似ています)から名付けられたようです。
アライグマは北米に生息する動物ですが、タヌキはもともと日本周辺の極東にのみ生息していた、英語圏では馴染みのない種です。近年ではユーラシア大陸を横断して欧州にも(外来種として)入りつつあるようです。
アリクイ → anteater
ちょっと番外編。
日本語のアリクイは「蟻食」でありド日本語です。英語でも「蟻食」と意味はまったく同じ「アリを食うやつ」です。
慣用句に登場する動物名
「この動物って英語でこういうんだ」的なインパクトは薄いものの、慣用表現として用いられているさまを併せて見てみると面白い動物たちも多々。
イタチ → weasel
/ˈwiːzəl/ (ヴィースル)のように発音します。
イタチは英語では俗に「コソコソしたヤツ」という意味合いで用いられることがあります。
weasel out で「責任回避する」という意味をとります。
彼は仕事を投げ出しどこかへ行ってしまった
シカ → deer
シカ(鹿)を英語で deer ということは比較的知られている知識でしょう。doe は female deer 。
不測の事態に出くわした際に、クワッと目を見開いて驚く様子を、俗に deer in the headlights と表現します。道路に飛び出してきた鹿が、向かってきた車のヘッドライトに照らされて、あわや、という場面を想起させる表現です。
彼が真実を言ったとき、私はただただ驚いた
ヤギ → goat
goat といえば「スケープゴート」という言い方が知られていますが、他にも get someone’s goat で「人をイライラさせる」という意味あります。
ボスをいらいらさせるなよ
ラクダ → camel
ラクダに関する慣用句としては a camel’s nose (in the tent) という言い方があります。
これは中東のことわざに由来する表現で、宿営するテントの中にラクダが鼻だけ入れることを許してしまったなら、あとはもうラクダが全身をテントに入れてくることを避けようがない、という意味合い。つまり、歯止めが利かなくなる事態を招く最初の小さな譲歩、といった意味合いです。
死刑の廃止を犯罪率の増加を招く悪い前例と成りうる、と考えている人もいる
リス → squirrel
/ skwírəl / のように発音します。
squirrel は動詞で「ものを貯め込む」という意味があります。squirrel (something) away で「隠して蓄える」というような意味合いで用いられます。
彼は少しずつレジからお金を持ち出していた
ゾウ → elephant
ゾウ(象)を elephant ということ自体は広く知られたところですが、elephant in the room と表現すると「あえて皆が触れずにいる(触れちゃいけない)話題」を意味します。