「天上天下唯我独尊」は英語でどう言う?

「天上天下唯我独尊」は、英語では一般的に  I alone am the world honored one. のように訳されます。訳文に決定版があるというわけではなく、表記揺れ程度の差異は多々見受けられます。

仏典にもとづき忠実に解釈するにしても、現代社会に即してスピリチュアルに解釈するにしても、絶対無二の正解にはたどりつけません。個人の人生観や人生訓として述べる文脈なら、いっそ大胆に意訳して自分の言葉で表現した方がよいのかもしれません。

「尊い」「尊い・・・」は英語でどう言う?

「天上天下唯我独尊」の主な英語訳の事例

「天上天下唯我独尊」とは、釈迦が誕生するやいなや(嬰児なのに)すっくと立ち上がり、歩み、そして発した言葉、という認識が一般的でしょう。

この「天上天下唯我独尊」の語は多くの仏典、経典あるいは説話などに登場します(どれも古い文献なので旧字体で「天上天下唯我尊」表記)

I alone am the world honored one.

英語圏において「天上天下唯我独尊」の訳文として最もよく用いられる表記は、おそらく、I alone am the world honored one. でしょう。

海外仏教系団体のウェブサイト、たとえば San Francisco Zen CenterStone Creek Zen CenterPrairie Zen CenterReno Buddhist CenterBTSD Online(Buddhist Temple of San Diego)などが、誕生偈「天上天下唯我独尊」 を I (alone,) am the world honored one. と紹介していることが確認できます。

法界佛教總會中文網站(Dharma Realm Buddhist Association)のテキストデータベースでも I am the World Honored One という記述が確認できます。

「天上天下」は字句通りに訳出せず、「世尊」(※世尊は釈迦の異称でもある)と意訳的に扱っている、とも解釈できそうです。

In the Heavens above and on the Earth below, I alone am the world- honored one.

BTSD Online(Buddhist Temple of San Diego) はタイトルこそ「I Alone, Am The World-Honored One 」ですが、本文では In the Heavens above and on the Earth below, I alone am the World-Honored One. と記述しています。

つまり「天上天下」部分を「天上にも天の下(=地上)にも」としっかり訳出しているわけです。

執筆者の方は Mountain View Buddhist Temple の Resident Minister Reverend(つまり住職)である  Yushi Mukojima。大阪生まれの開教師だそうです参照

Above heaven and below heaven, I alone am honored.

Above heaven and below heaven, I alone am honored. も「天上天下唯我独尊」の訳文の筆頭に挙げられるべきでしょう。

above heaven(天上)and below heaven(天下), I alone am (唯我独)honored(尊) という風に逐一対応づけできそうな、逐語訳的な訳例です。

この Above heaven and below heaven, I alone am honored. は、米国の Buddhist Text Translation Society が採用している訳文という点が注目されます(※ 「The Vajra Prajna Paramita Sutra(2013)」 を Googleブックス で閲覧し確認)。ある種の権威が原典に忠実に訳した記述と捉えてよさそうです。

とはいえ、原典に忠実な訳文は往々にして英語らしい自然な響きを犠牲にしがちです。学問的には参照しやすく、英語表現としては引き合いに出しにくい、といった趣がありそう。

Throughout heaven and earth, I alone am the honored one.

Throughout heaven and earth, I alone am the honored one. という表現も有力な候補です。これは Buddhist Summit(全世界佛教サミット)がウェブサイト上で用いている表記です。

Buddhist Summit は、世界中の仏教指導者が教義や宗派を超え一堂に会する会議です。1998年に第1回大会を開催。2017年11月に第7回佛教サミットが、スリランカで(政府の国家的行事として)催されています。

Holy am I alone throughout heaven and earth.

研究社 新和英中辞典には「唯我独尊」の項目が収載されており、文例として「天上天下唯我独尊」が、 I am my own Lord [Holy am I alone] throughout heaven and earth. と紹介されています。

同辞書では [] 型のカッコを言い換え表現の提示に用います。つまり同文例は2通りの言い方を紹介しているわけです。

  • I am my own Lord throughout heaven and earth.
  • Holy am I alone throughout heaven and earth.

Holy am I alone ~ が半ば定番の訳になっている

lord は「主人」「支配者」「君主」といった意味の語で、固有名詞的に the Lord と表記する場合はキリスト教における救世主を指します。

holy は「神聖な」「神事にかかる」あるいは「高徳な」「聖者の」「信心深い」という意味合いを中心とする語です。

で実際にどちらの方が多く用いられているかというと、これは Holy am I alone ~ の方が多いといえそうな気配です。

曹洞宗大本山總持寺(そうじじ、曹洞宗の大本山)MIHO MUSEUM(滋賀県にある私立の美術館・博物館)立正佼成会、などが英語メディア上で Holy am I alone throughout heaven and earth. の字句を用いています。

西義人(龍谷大学・教学伝道研究室の上級研究員の方)が2016年に発表した論文のタイトルも同じ記述です。

「天上天下唯我独尊」をどう説明するか : 本願寺派における「いのちは尊い」説の定着に関して
How We Should Explain Shakyamuni’s Saying ‘Holy Am I Alone Throughout Heaven and Earth’ : Concerning the Slogan “Life is Precious” Propagated by the Hongwanji School of Jodo Shinshu
―― CiNii 論文データベース (「龍谷教学」51 2016年)

日本語圏のメディアの多くが honor(誉れ)や lord(主)よりも holy (高徳)の語を用いている、という点は、「尊」の字義に関する解釈が垣間見えるようで興味深くもあります。

I alone am the honored one above and below Heaven.

韓国の Buddhist eLibrary(buddhistelibrary.org)がオンラインで公開している 公案集(GONGAN COLLECTIONS)(※リンクはPDFファイル)では、「天上天下唯我獨尊」を I alone am the honored one above and below Heaven. と訳しています。

本稿でここまで挙げてきた記述例と本質的には同じ、表記揺れの範囲といえるでしょう。ちなみに編者・訳者は「EDITED BY JOHN JORGENSEN, TRANSLATED AND ANNOTATED BY JUHN Y. AHN」とクレジットされています。


場合によっては「天上天下唯我独尊」を大胆に意訳する手もアリ

「天上天下唯我独尊」という言葉の「そもそもの部分」を突き止めようとすると、きっと文献学的な迷宮に迷い込みます。

そうして「本当は自分は《天上天下唯我独尊》で何を表現したかったのだろう」と問い返すことになるでしょう。

「天上天下唯我独尊」は字面としてカッコイイのですが、何かを伝える言葉として挙げるなら、いっそ自分なりの言葉にかみ砕いて平易な英語で伝えたほうが効果的なはずです。

You are essential.

現代における通俗的な捉え方として、「天上天下唯我独尊」は個々人が唯一無二の存在であり、かけがえのない尊い存在なのだ、という解釈があります。

「かけがえのない存在だ」ということを端的に伝えるなら essential と述べるだけでも充分だったりします。essential は「非常に大切」「欠くことができない」つまり「かけがえのない」さまを示す表現です。

center of the universe

人ひとりひとりが、その人の世界の中心にいる存在だ、つまり人は皆それぞれの世界の主人公なのだ!的なことを表現するのであれば、「世界の真ん中」といった観点で捉え直してみるのもよいでしょう。

見知った字面を捨てて本旨を自分の言葉で紡ぎましょう

いわゆる仏典の原典はパーリ語で書かれています。これが中国へ伝わって漢訳され、その漢訳が日本に伝わった、という経緯があります。

つまり、「天上天下唯我独尊」という漢字8字が、実はすでに訳文とも解釈できるわけです。

「天上天下~」の記述が確認できる仏典は多数あり、その筆頭としては「長阿含経」が挙げられますが、実は長阿含経をはじめとする初期の漢訳仏典では「天上天下唯我独尊」ではなく「天上天下唯我尊」と記されています。

佛告比丘。諸佛常法。毗婆屍菩薩當其生時。從右脅出。專念不亂。從右脅出。墮地行七步。無人扶侍。遍觀四方。舉手而言。天上天下唯我為尊。要度眾生生老病死。此是常法。爾時。世尊而說偈言
―― SAT大正新脩大藏經テキストデータベース

「天上天下唯我独尊」の本当の意味はあなた次第

「唯我独尊」と「唯我為尊」の記述の関係は、現在も決定的にケリがついたわけではなく、しかも解釈いかんによって仏教の精神そのものが少なからず動き得る、研究対象として興味深い部分です。結局のところ、今日に伝わる仏典の言葉そのものが、少なからず、受け取る側の解釈いかんによって違った意義を見出され得ます。


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