英語で「日本語の固有名」を表記する綴り方の基本

英語の文章の中で日本語の固有名に言及する場合、語の綴りが不明瞭で書き方に迷う場合がままあります。標準的な綴り方を踏襲するための指針を把握しておきましょう。

国土交通省・観光庁は平成26年(2014年)3月、「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」と題する指針を公表しています。とりあえずコレに倣っておけば、無難な表記に着地できそうです。

ガイドラインは、国がとりまとめたといっても指針に過ぎず、決して「これに則していない表記は許容されない」というような代物ではありません。究極的にはコミュニケーションが成立すればよいわけで、いくらか綴りが不確かでも致命的な問題に至ることはまずありません。余裕をもって、余技のつもりで、息抜きついでに学ぶくらいがちょうど良いでしょう。

一般的な固有名詞の表記方法

日本語における固有名詞の英語での書き方は、おおむね次のような原則にのっとって表記すると望ましい、と述べられています。

固有名の英語表記はヘボン式ローマ字で表音表記する

ヘボン式ローマ字は「し」を shi、「ち」を chi、「つ」を tsu、「じゃ」は ja と綴る表記法です。主に「訓令式」表記法と対比されます。

たとえば「新宿」は、訓令式で Sinzyuku のように表記することも可能ではありますが、ヘボン式ローマ字で綴って Shinjuku と表記する書き方の方がより一般的であり適切と判断できます。新宿区も公式に Shinjuku の表記を用いています。

固有名は頭文字のみ大文字で表記し、他は小文字で綴る

英語の原則として、固有名は先頭を大文字で表記します。

箱根なら hakone ではなく Hakone が望ましい書き方と判断できます。

普通名詞を含んだ固有名は基本的に表音+訳語を併用

「隅田川」や「富士山」のような、「固有名+地勢を表す普通名詞」の名称は、固有名部分を発音通りに綴り、普通名の部分は対応する英訳語を充てる書き方が中心です。どちらの語も先頭は大文字で表記します。

たとえば「隅田川」なら Sumida River 、「富士山」の場合は(英語の「山」表記に則して語順を入れ替え+略記して)Mt. Fuji のように表記できます。阿蘇山は Mt. Aso 。

琵琶湖は Biwako と言った方が収まりが良い気がしないでもないものの、英語名は Lake Biwa が標準的です。諏訪湖は Lake Suwa 。宍道湖は Lake Shinji 。

固有名詞と普通名詞に分割できない場合には、固有名詞のローマ字表記に普通名詞の英訳を付する

「~山」「~川」の部分が名詞と一体化しすぎていて不可分(あえて切り離すと地名として認識できなくなってしまう)と判断される場合は、山・川の部分も固有名の一部として含め、同時に、普通名として別途 Mt. や River の語を加えます。

例としては「荒川」 = Arakawa River や、「芦ノ湖」=Lake Ashinoko、のような地名が挙げられています。

Sumida River と Arakawa River との間に(固有名の部分に kawa を含むか否かという点で)どういう境界線があるのか、ちょっと判断つきかねる部分ではあります。

まあ、いざとなったら Sumidawaga River のように表現してしまっても、誤りということはありません。気楽に構えましょう。

なお、芦ノ湖は Lake Ashinoko という表記の他に、Lake Ashi と表記される場合もあります。(Lake Ashino と表記される例も見られますが稀です)

寺社の表記はやや強めに原則を意識する

寺社仏閣の号(名称)は、「寺」「院」の部分も固有名に含めた上で、さらに「寺」「院」なども普通名として別途加える表記が推奨されています。たとえば平等院なら Byodoin Temple 。

日本語名が確立している名称は全体を表音表記して訳語を補足する

一応は英語に訳出できるものの日本語の固有名としての性格を強くもつ名称、たとえば駅名としての「国会議事堂」のような名称は、Kokkai-Gijido(National Diet Bldg.)あるいは National Diet Building (Kokkai Gijido)のように、両表記を併記する方法が提案されています。

より柔軟で場合による方針

比較的柔軟性のある、どちらでも許容できる側面の色濃い方針もいろいろとあります。

発音の便宜を図る意味でハイフン(-)を挿入してよい

複数の単語からなり一つの固有名となる場合は、一連の語であることを示すためにハイフンを用いて示します。

平安神宮 = Heianjingu Shrine

また、「o」の音が続く場合などでも発音上の便宜を図ってハイフンを使い連続を回避する使い方が許容されています。

「ん」は m で表記できる場合もある

日本語の中で「ん」と表記される音は、実は n で示される音、m で示される音、ng で示される音、の3種類に区分できます。

→ 日本語の「ん」の発音は3種類ある

「ん」の直後に m、b、p のような(いったん口を閉じて唇を全てつけた状態で発音される)子音が続く場合、直前の「ん」は「m」で表記される種類の発音となります。そのため英語表記でも m を使った表記が許容されています。

必ずしも n はダメで m でなければというわけでもありません。たとえば「日本橋」は Nihombashi とも Nihonbashi とも書かれます。

促音は子音を重ねる、ただし ch に限り cch ではなく tch と表記する

大阪の日本橋(にっぽんばし)を Nippombashi (または Nipponbashi)と表記するように、促音(つまった音)は子音を2重にして表記します。ただし、ch の音に促音がつく場合、cch ではなく tch の表記が望ましいとされます。

八町(はっちょう)という地名があれば Haccho よりは Hatcho の方が政府のガイドラインには則していると判断できます。

母音字の上に長音記号(符標)をつけて長音を表す書き方もあり

中央線を Chūō Line と表記するように、「マクロン」と呼ばれる記号を母音に加えて長音を示す方法があります。これは交通機関などで比較的多く見られるようです。

PCやスマホを入出力に使用する場面では入力も表示も危うい部分があるので、普段の使用にはあまり向かないかもしれません。

 

参考リンク

観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」(国土交通省・観光庁、平成26年3月)

 

 


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