「オタク」(ヲタク)は現代の日本で生まれた言葉です。とはいえ、オタク的な人というのは世界のどこにでもいるもの。英語にも大体オタクを指す語として使えそうな表現があります。
オタクとは正反対のあり方が「リア充」。リア充は、うまく対応する表現を探すよりも、「私生活が充実している人」というように少し説明的に述べた方が、かえってうまくニュアンスを伝えられそうです。
ニュアンスで言い分ける英語の「オタク」表現
日本語のオタクに対応しそうな英語表現はいくつか挙げられます。いずれも微妙にニュアンスが違います。
日本語の中の「オタク」も、昨今では使用場面や人によって含意が少々異なります。あらためて日本語のオタクの意味合いをかみしめながら、対応する英語表現を把握してみましょう。
nerd (ナード)
nerd は、ひとつのことに熱中しており精通してもいるような人を指す言い方として用いられることのある表現です。たいてい、computer nerd や IT nerd のように複合語の形を取ります。
この「オタク」的な意味合いは、20世紀半ば以降に広がった俗な意味合いのようで、特にパソコン関連(コンピュータやインターネット)分野における《そういう人》を指します。audio nerd や home theater nerd といった表現も見られます。
スティーブはかなり極まったガジェットおたくだ
nerd は半ば悪口
nerd は基本的には「社交性に欠ける人」「人付き合いの下手な奴」という意味を中心とします。いわゆるコミュ障。さらに「マヌケ」とか「使えない奴」といったニュアンスも含む、人を見下す言い方です。
日本語の「オタク」にも、ちょっと前までは、「社交性が乏しく」「垢抜けない身なりで」「日常生活を要領よく送れない」といった見下しのニュアンスが割と色濃く含まれていました。その意味でも nerd は日本語の「オタク」に一番近そうな表現といえるでしょう。
geek (ギーク)
geek の元々の意味は「変人」「変態」「変わり者」という、普通でない人を指す言い方です。そして「特定の事柄に熱中・熱狂している酔狂」という意味で用いられることがあり、この意味合いが「オタク」のニュアンスに通じます。
geek も nerd と同様、もっぱら複合語の形を取って computer geek のように用いられます。
geek は半ばホメ言葉
geek は nerd に比べるとずいぶん肯定的なニュアンスを含みます。しかも geek は必ずしも「社交性に欠く」というニュアンスを含みません。むしろ普通のことは普通にこなせる、その上で、特定の事柄となると「狂」の字を付けたくなるような知識や技術を持って情熱を注ぐ、といったニュアンスがあります。
音楽CDを何千枚と聞いている人は music geek でしょう。蔵書を何千冊と所有している人は book geek でしょう。映画を何千本と鑑賞したという人は movie geek でしょう。ちょっと敬意を抱いてしまうような感覚が geek にはあります。
英語の geek と nerd の違い、その違いが生じた経緯については、ウェブメディア「WIRED」が詳細に紹介してくれています。
英語の「オタク」:ギークとナードの違いは? – WIRED.jp
freak(フリーク)
freak も、特定の分野に熱中・熱狂している変わった人を指す言い方です。酔狂・奇人・奇特な方。
freak もやはり複合語の形で computer freak のように表現されます。
freak は必ずしも「高度な知識や技術を持つ」というニュアンスを伴うとは限りません。また、社交性に欠けるというニュアンスは含みません。そのため、サッカーや筋トレのような(オタクの典型的イメージとは縁遠い)事柄についても用いやすい表現です。
英語の freak を日本語に訳するなら、「オタク」よりもむしろ「マニア」の方がしっくり来るでしょう。 games freak (ゲームマニア)とか、 soccer freak(サッカーマニア)とか、workout freak (筋トレマニア)とか。
なお英語では「マニア」は(人を指す用法では)mania ではなく maniac と表現します。
Otaku(おたく)
ちょっと番外編ですが、海外メディアでも日本文化がらみの話題を取り上げる文脈では、オタクを敢えて英訳せず otaku と音写する場合がしばしばあります。
昨今では日本のサブカルチャーも広く海外で認知されるようになりつつあります。Anime(アニメ)は animation の略というより、もはや日本のアニメを指す固有名となっています。Emoji(絵文字)、Kawaii(カワイイ)、Cosplay(コスプレ)なども海外の日本文化フリークの間では定着しています。
日常英会話でいきなり otaku と言って、意味が通じるとは期待できませんが(さすがにキョトンとされるでしょうけれど)、日本の話題になって日本のオタクあるいは海外の日本オタクを言及する場合には、geek や nerd や freak よりも OTAKU の方が、むしろよく伝わるものがある、かも知れません。
「リア充」は英語でどう言う?
「オタク」のほぼ対極に位置づけられるステレオタイプとして「リア充」という言い方があります。おおむね「現実世界の私生活が充実していて人生を満喫している人」といった意味合いと捉えてよいでしょう。
英語で「リア充」の意味合いを1語でバッチリ表現する単語は、なかなか見つかりません。(ちなみに日本語の「オタク」は昭和の頃に浸透した表現、「リア充」は平成になって広まった表現です)。
大まかな意味合いをかみ砕いて英語に再構築するなら、いくつか穏当そうな言い方は見つかります。
social life
social life は直訳すれば「社会生活」であり、リアル世界の人づきあいといった程度の意味合いですが、特に「友人たちと楽しく過ごす」というニュアンスを含む場合があります。
the time that you spend enjoying yourself with friends
(友人たちと共に楽しく過ごすひととき)
your social life involves spending time with your friends, for example at parties or in pubs or bars
(ソーシャルライフには、パーティー、パブ、バーのような場所で友人たちと共に過ごすという意味合いがある)
たとえば、How to make friends and get a social life(どうすれば友人を得てリア充生活を実現できるか)といった言い方ができます。
real life
real life は「現実世界の生活」という程度の意味で、理想や虚構と対比される言い方です。real life の語そのものは、リア充めいた意味合いを特に含みませんが、「充実している」「うらやましい」といった語で形容すれば意味合いは表現できるかも知れません。
fulfilling life
「充実した人生」という意味で fulfilling life という表現が用いられることがあります。fulfilling は「満たされた」「満ち足りた」といった意味合いの語で、友達づきあいという含意は特に含みません。これも、ある種のリア充のあり方を形容する表現として使えそうです。
sociable
リア充は結局のところリアル社会で社交的に充実しているということを示すのですから、sociable(社交的である)と述べるだけでおおよそのニュアンスは伝わります。
sociable の他にも、outgoing(外交的) 、 extrovert (外向的)といった語も、リア充的な生き様を形容する語として使えそうです。
もっとも、いくら顔が広くても、人づき合いが盛んでも、それがリア充といえるあり方に直結するかどうかはまた別の話です。リア充の意味で使えるかどうかは、あくまでも文脈次第です。