日本語表現の「お手上げ」は、降参や諦めを意味する慣用表現です。英語でも throw up one’s hands (手を上げる)という言い回しで同種の諦めの境地が示せます。
日本語の「お手上げ」が意味するところは、「どうにも参った」「手の施しようがない」、つまり《困難》《降参》《行き詰まり》の表現。そう考えてみると。throw up ~ 以外にもいろいろと妥当な英語表現が見えてきます。
降参・閉口・諦め・断念を表現する言い方
throw up one’s hands(お手上げ、さじを投げる)
throw up one’s hands は、文字通りには「諸手を(放り)上げる」、意味的には「降参を認める」「諦めの意を示す」という、どちらの点でも日本語の「お手上げ」にほぼ対応する言い回しです。
「もう降参して忘れてしまえ、と言っているわけではないよ」とフリードマン博士は言った
― The New York Times , MARCH 1, 2010
匙は投げずにタオルを投げる
throw (投げる)の語からは「「さじ(匙)を投げる」という言い方も連想されます。この言い回しは、どことなく西洋の慣用表現っぽい雰囲気がありますが、日本生まれの言い回しです。throw a spoon なんて言ってみても首をかしげられてしまいます。
英語には throw in the towel (タオルを投げ入れる) と表現して「降参」を示す言い回しがあります。タオルの投げ入れはボクシングの試合中にセコンドが敗北宣言する動作であり、つまり「続行を諦めて負けを認める」さまを意味します。
ちなみに、英語の raise one’s hand という言い回しは、「手を上げる」すなわち「名乗りを上げる」もしくは「(人を)ぶつ」という意味で用いられることがあります。これはこれで英語の慣用句というわけです。
up the creek(苦境に立たされる)
up the creek は日本語で言うところの「苦境に立たされる」という意味合いで用いられる慣用的な言い回しです。多分に口語的な表現です。up a creek とも表現できます。
creek は「入り江」あるいは「小川」のこと。船が入り江などの狭隘なところに入り込んでしまって、身動きが取れなくなる(お手上げの状態)、というような情景が想起されます。
マンモグラフィーがなければ私はお手上げ状態に陥っていたでしょう
― The New York Times, APRIL 7, 2010
月末が期限となっているIMFへの支払いによって、彼らは金と時間を使い果たし、にっちもさっちもいかなくなってしまった
― The New Yorker 2015/07/17
up the creek は文字通りの意味で「小川に入り込んだ」という意味で使われることも多々あります。文脈に応じた判断が必要です。
in deadlock(行き詰まっている)
in deadlock は日本語では「停頓」「行き詰まり」と表現される情況を指す言い方です。
deadlock は複数のロック機構が互いに締め合う形となり、自力では解けなくなっている(にっちもさっちもいかない)ような情況です。
最近では日本語でも、特にIT関連の分野などでは「デッドロック状態に陥る」といった言い方が普通に用いられます。これと同じ感覚で使えます。
don’t know what to do(どうしたらよいか分からない)
don’t know what to do は文字通り「どうしたらいいかわからない」と述べて、ある種の「お手上げ」のニュアンスを表現する言い方です。
「お手上げ」に通じる表現とはいえ、文字通り「どうしたらよいものか」という理解で扱った方が何かと使いやすい表現でしょう。とびきり平易な単語だけで構成されている点も使いやすさのポイントです。
up a tree(もう後がない)
up a tree は「樹上にいる」情況を指す言い方であり、すなわち「追い詰められ(て木に登ることになってしまっ)た」情況を指す言い方です。
どうして追い詰められると木に登るのか? これは狩猟において追われる獣の立場を考えると腑に落ちます。もう絶体絶命の情況であるというニュアンスも感じ取れるはずです。
本当に彼らを相手にした仕事をしたいなら、彼らを愛さなければいけません。もし愛していないのなら、絶望的です
― The New York Times, NOV. 6, 2011
ちなみに、tree という単語それ自体にも、「樹上に追い詰める」あるいは「窮地に立たせる」という動詞の意味・用法があります。
英語の「意外にも動詞の用法がある名詞」
nothing can be done(どうしようもない )
nothing can be done は「打つ手がない」「どうしようもない」という意味で「お手上げ」のニュアンスをかなり的確に示す表現です。
問題は、当時できることが何もなかったということだ
― The New Yorker, August 25, 2014
intractable(手に負えない)
intractable は「手に負えない」「制御しにくい」と訳されることの多い語で、きかん坊・強情っぱり・とかく気むずかしい人に対して干渉を諦めるような脈絡の「お手上げ」のニュアンスを表現できる言い方です。
intractable は難しい性格の人だけでなく、気性の荒い動物、扱いにくい物事・問題、あるいは難病などを形容する言い方としても使えます。
問題は手に負えず、解決策はぼんやりしている
― The New Yorker, December 16, 2014
baffle (挫けさせられる)
baffle は「挫折させる」「困惑させる」といった意味で用いられる動詞(他動詞)です。
baffle はもっぱら《(問題)+ baffle(s) + (人)》という構成で用いられ、何事かの問題が人を悩ます、計画を挫く、といった意味を表現します。訳出する場合は「(人)は(問題)にお手上げ状態だ」という風に表現すればコナレた感じに訳せます。
その手の問題には彼もお手上げだろう
「もうおしまいだ」と言ってお手上げ感を表明する言い方
「お手上げ(だ)」と客観的に叙述する言い方は、他ならぬ自分がお手上げ状態なのですと訴える場面ではイマイチ使いにくい面があります。
自分の見解として「お手上げだ」「もう打つ手がない」と述べる場合、少し表現を変えて、「もうダメだ」と述べるような言い方にした方が、伝えたい趣旨はうまく伝わる場合も多いでしょう。
finished または over(終わった・・・・・・)
finished あるいは over の語は、どちらも「終了した」という意味で用いられる表現ですが、往々にして「状況が終わった(行き詰まった)ことに対する絶望感」のニュアンスを込めて用いられる表現でもあります。
日本語で俗な表現として用いられるところの「終わった」に近いニュアンスと捉えてよいでしょう。
「ハリウッドはもうオワコンだよ」― ニューヨークに逃れたアカデミー賞受賞監督はこう主張する
― The Guardian, 21 October 2017
at an end(もうお終いだ)
at an end も「もうおしまいだ」「もう限界だ」という意味で使える表現です。(be) at an end の他に come to an end とも表現できます。
patience (忍耐)の語を伴って one’s patience is at an end と表現すると「我慢の限界」という意味合いが表現できます。
done for(もう終わりだ)
done for は口語表現で「もうおしまいだ」という意味合いを示す言い回しです。done for の2語を1個の形容詞(の叙述用法)のように扱います。
もうダメだ
have had it(もうダメだ)
have had it も done for と同様、「お終いだ」「ダメだ」という意味で用いられる口語的な言い回しです。
have had の部分はそれぞれ助動詞と動詞で、語形が違うとはいえ have が2つ連なるという部分におかしみがあるのかもしれません。
見張りに見つかったら俺らは終わりだぞ
have had it は俗に「もうダメだ」と表現し得るような幅広い意味・ニュアンスで使える表現です。物損がらみで「もうダメだ」、自分の命が「もうダメだ」、サツに追われて「もうダメだ」、我慢が限界に達して「もうダメだ」といったニュアンスでも使えたりします。