英語で「忘れる」「忘れた」と表現する場合、たいていは動詞 forget を使って無難に表現できます。ただし「~に置き忘れて来た」という場合は leave の方が適切です。
forget は、いざ文章中で使うとなると細かい疑問がいくつも生じるタイプの言葉です。「し忘れた」という場合に forget to do と言うべきか forget doing と言うべきか、あるいは、時制は現在形でよいのか過去形にするべきか等々。改めておさらいしましょう。
動詞 forget は幅広い意味合いで使える表現
たいていの文脈では、動詞 forget が「忘れる」の意味合いで無難に使えます。
記憶にない、覚えていない、思い出せない
forget の最も基本的な意味合いとして「忘却」が挙げられます。記憶に残っていたはずの情報が不本意にも失われてしまった状態を表現します。
昨日は何を食べたか忘れた
子供の頃のことなど忘れてしまった
= fail to remember
forget が忘却の意味で用いられている場合は fail to remember のように言い換えられます。「覚えている(記憶している)ことができなかった」という感じです。
し忘れる、忘れてやらなかった
forget は forget to do の形で「行動し忘れる」という意味合いが表現できます。
forget to do は、《 forget が前》で《to do の動作が後》という時間関係があります。つまり、「するつもり(予定)があったことをウッカリ忘れ、未遂になった」ということ。
彼女は水道の水を止め忘れた
お手持ちの荷物をお忘れになりませんように
英語の語法解釈のひとつの見方として「to不定詞は時間的に未来のことを志向する(傾向がある)」とする見解がありますが、この見解は forget to do のニュアンスを理解する方法として有益です。
= omit
行動し忘れる、し損ねるという意味では、動詞 omit が同じ意味合いで使えます。
やったことを忘れる
forget を forget doing の形で用いる場合、forget to do とは逆に、すでに行った事柄の「遂行したという事実を忘れる」「記憶からなくす」という意味合いを示します。
forget doing は、実際の使用場面としては、もっぱら「これからも絶対に忘れない」というような否定未来(未来表現の否定文)の形で用いられます。
彼女に会えたことを僕は決して忘れない
どこかに置き忘れる
forget は、手元にあるべき荷物を持ち忘れる、置き忘れる、という意味合いでも使えます。
ペンを借りてもいい?自分のを忘れちゃって
忘れた場所も明示する場合は leave を使う
forget で「置き忘れてきた」と表現する用いる場合、具体的にどこに置き忘れてきたかを示す( at my office や on the train のような)表現とは併用できません。
どこそこに置き忘れてきた、と具体的に述べる場合には leave の語で表現します。
ごめんなさい、あなたへのプレゼントを家に忘れてきてしまいました。
会社に傘を忘れてきた
leave は「置き去りにする」状況を表現できる動詞です。forget の意味・ニュアンスは、あくまでも「記憶や意識から抜け落ちる」という、頭の中で生じる事柄です。この点を踏まえておけば、使い分けはそう難しくはないでしょう。
考えない、気にしない、思考から遠ざける
forget は、ウッカリ忘却する状況だけでなく、自分から積極的に忘れようとする状況を表現する意味でも使えます。
疑念や妄念などに囚われてしまっている状況を脱する、意識が傾かないようにする、といった意味を込めて使われます。
その女のことは忘れて次に進め
忘れなよ、気にするなよ、いいってことよ
我を忘れる、我を失う
再帰代名詞を用いて forget oneself のように述べると、「自分自身を忘れる」、本来の自分とは違った振る舞いをする、という意味合いが表現できます。
forget oneself は文脈によってニュアンスが違ってきます。
- 無我夢中になって熱中する
- カッとなって自分らしからぬ言動に走る
- 身の程をわきまえない愚挙に出る
- 自らを捧げる、献身的に相手に尽くす
自分を見失わないように
時制によって示されるニュアンスの違い
日本語では「忘れた」と述べる場面はもっぱら「忘れた」と(過去形で)表現されます。「忘れる」と述べるとチグハグな文章になってしまいます。
英語でも「忘れた」と述べる場合は基本的には過去形(forgot)を用いた言い方が無難といえますが、文脈によっては現在形で表現できる場合があります。
現在形 forget は「ちょっと思い出せない」
動詞 forget は主に「忘れる」と訳されますが、語義の根本には「思い出せない」という意味合いがあります。
この「思い出せない」という意味を込めて述べる場合、forget を現在形で用いることがあります。「失念した」というニュアンスが近いといえるかもしれません。
彼女のメアドをど忘れした
forget は「動作」と「状態」のどちらをも表現できる
動詞は《動作動詞》と《状態動詞》に区分できます。動作動詞は「動作」を表現する動詞、状態動詞は「状態」について述べる動詞です。forget は動作動詞と状態動詞の両方の使われ方をします。
つまり、forget は、「これから忘却に移行する」という動作を示す意味合いと、「すでに忘れた状況にある」という状態を示す意味合いと、両方の意味で使えます。
現在形で forget と述べる場合は、忘れている=思い出せない状態を示す、と考えると、「忘れる」「忘れた」という表現の特殊性が理解しやすくなるでしょう。
過去形 forgot は基本であり「(その時は)忘れていた」
日本語で「忘れた」と表現する文脈の大半は過去形 forgot を使えば無難に通じます。表現に迷ったらとりあえず過去形で述べましょう。
過去形 forgot は、過去の時点で「忘れた」「忘れた状態にあった」旨を表現し、多分に「忘れていた(が今は思い出した)」というニュアンスを伴います。
ああ、君は辛い物が苦手だってことを忘れていた
今日の約束を忘れていたことに気が付いた
現在形(forget)で「失念した」と表現する文脈を、過去形で表現しても、特に変ではありません。ニュアンスは失念よりも「忘れた(まま現在に至る)」という感じに寄るかもしれません。
almost forgot で「危うく忘れるところだった」
過去形 forgot に almost(ほとんど)を添えて almost forgot と表現すると、「忘れちゃいないけど危うく忘れかけた」「もう少しで忘れるところだった」というニュアンスが表現できます。
宿題があることをもう少しで忘れるところだったよ
現在完了 have forgotten は「本気で忘れて今も思い出せない」
現在完了で have forgotten と表現すると、継続状態、つまり「忘れてしまった、今でも思い出せずにいる」状況が表現できます。
彼は私の言ったことなど忘れてしまったに違いない
普通は forgot に置き換えて述べられる
日常会話では 、「完全に忘れてしまい今も思い出せていない」という状況でも、have forgotten とは言わずに過去形の forgot で表現される場合がよくあります。
日常会話の軽い場面で現在完了の have forgotten を使うと、「すっかり忘れていた」 「完全に失念していた」というような大げさなニュアンスが伴ったり、場面によっては「思い出すつもりは毛頭ない」という突き放したニュアンスを伴ったりしがちです。
過去完了形 had forgotten は「すでに忘れていた」
forget の過去完了形 had forgotten は、何かが起こる(起こった)手前の時点でもう忘れていた、という状況を叙述する表現です。
昨日、君に文書を送るのを忘れきっていたけれど、君からの電話で思い出したよ
名前を書き忘れたので、先生に叱られた
ちなみに、forget の過去分詞は forgotten であり、forgot ではありません。動詞 get と関連づけて覚えてしまうと( get – got – got の変化につられて)誤認してしまいやすいので、しっかり区別しておきましょう。
現在進行形 forgetting は「一時的な忘れ」
forget を現在進行形(forgetting)で用いる言い方もあります。
be forgetting は「すぐに思い出せるような事柄をウッカリ失念した(が今思い出した)」という一過性のニュアンスを強調する言い方です。
それをお伝えし忘れていました
傘を忘れるところだった
現在進行形は、forget の例に限らず、その場の一過性の状況を示す表現として用いられることがままあります。
「忘れつつある」という意味の場合もある
be forgetting は、現在進行形の本来的な趣旨で「今まさに忘れつつある」という意味を示す場合もあります。
この言い方は「徐々に忘れていく」と表現できる対象、たとえば言語などについて言及する際に用いられます。
英語を忘れつつある、めったに話す機会がないから