日本語の俗な言い方には「すごくイイ」の意味で「やばい」と言ったり「くそ上手い」と言ったりする場合があります。このような本来マイナス評価を示す語意をプラス評価の意味で用いる言い回しは英語にも多々見られます。たとえば「bad」「wicked」「sick」「badass」「deadly」など。いずれも、基本的にはネガティブな表現ですが、文脈によってはポジティブな強調表現として使われます。
映画「ハリー・ポッターと賢者の石」では、ハリー・ポッターがロンと列車の中で出会うシーンで「Wicked!」というセリフが登場します。wickedは本来「邪悪な」といった意味ですが、ここでは賞賛混じりの感嘆のニュアンスを多分に含みます。
Harry: I’m Harry. Harry Potter.
Ron: So it’s true! I mean, do you really have the …
Harry: The what?
Ron: The scar? ….Wicked!
ハリー:僕はハリー、ハリーポッター。
ロン:じゃあ、本当なんだ!その、君には本当にアレがあるの?
ハリー:何が?
ロン:傷が?…すごい!
bad (ヒドく)
bad は「悪い」を意味する最も基本的な形容詞ですが、意味が反転して「すごく良い」「カッコイイ」という意味でも用いられます。「ちょいワル」の格好良さのニュアンスが近いでしょうか。
副詞形 badly も bad と同様にポジティブな意味でも使われます。
This car is so bad.
この車チョーかっこいい
I love you so badly.
君のことめちゃくちゃ愛してる
→ 「bad」を使って「いいね!」と言えるとスゴく上級者っぽい
sick (ゾクッとする)
sick は基本的には「病気の」「具合が悪い」といった意味の形容詞。これも「最高」というニュアンスで使われます。「ステキすぎてクラクラしちゃう」というようなニュアンスです。特に、初めて見たものへの感動、新鮮な驚きに包まれている場面などで多く使われます。
Dude, that necktie is sick!
おい、そのネクタイ良いな!
Man, your performance was really sick!
あんたの演技最高だったよ!
wicked (メチャクチャ)
wicked は元々は「悪い」「不正な」「邪悪な」という意味を基本とし、「悪人」(wicked man)のような表現に用いられる形容詞ですが、これも「すばらしい」「最高」「とても上手」という意味で用いられます。
That’s a wicked imitation.
すごく上手く真似てあるなあ
That’s a wicked cool shirt!
そのシャツ、やばカッコイイ!
badass (ヤバい)
badass も bad と同様に「すごく良い」「カッコイイ」という意味。人について述べる場合には「堂々としている人」「腕のいい人」「タフな人」といった意味が込められます。
The hero in the movie is a real badass.
その映画のヒーローがマジでカッコイイんだ
He’s a badass when he plays soccer.
彼はサッカーをさせるととても上手だよ
deadly (死ぬほど)
deadly は形容詞でも副詞でも使われます。形容詞としては「すごい」「非常に正確な」といった意味合い、副詞としては good や awsome などの語を修飾することで「すっっごく良い」という強意・強調の役割を担います。
Gee, that was a deadly shot.
うひゃー、すごく正確な射撃だな
Don’t worry, thing’s going deadly good.
めちゃめちゃうまく事が進んでるから心配するな
ただし、あくまでも俗な言い方
ネガティブワードを使ってポジティブな評価を表現する言い方は、素直に腹を割って感動や賞賛を述べるニュアンスが出せます。気の置けない間柄では親密度がより増すでしょう。ただし、いずれの表現も口語表現であり、基本的には下品な表現、場所を選ぶ言い方であるという点はお忘れなく。