英語では、病気や心身の不調を ill および sick で無難に表現できます。いわゆる精神疾患も mental illness のように表現できます。他方、通俗的に「心が病んでる」などと述べる言い方の「病」のニュアンスは、必ずしも ill や sick が適当とは限りません。
情緒不安定、構って欲しがる、相手にどっぷり依存する。いわゆるメンヘラ。こうした意味合いを込めて用いられる「病んでいる」は、「病気」よりもむしろ「面倒な性格」の部類です。
英語で「病気・具合が悪い」と表現する sick、 ill その他の言い方
いわゆるメンヘラの意味するところ
「メンヘラ」は日本語のインターネットスラングであり、なかなか定義しがたい微妙な表現です。
もともとの意味が曖昧で、その意味も次第に変遷しています。人によって受け取り方が異なる場合もあり得ます。
当初は「心に何かしらの問題を抱えた人」といった比較的まじめな意味合いが主だったといえます。
そして昨今では、「面倒で厄介」程度の意味で「病的」と表現するようなニュアンスが一般的な使われ方になりつつあります。
メンヘラのステレオタイプが示す特徴
昨今の通俗的な意味用法における「メンヘラ」は、極言すれば「面倒くさい構ってちゃん」といえます。
メンヘラな人の典型的なイメージは、おおむね次のようなものでしょう。
- 他人への依存度が高い
- 精神状態が不安定
- 自己中心的
mental health は「病んでいる」意味を含まない
「メンヘラ」の語は、 mental health + –er という脈絡で生まれた言葉です。
mental health はれっきとした英語表現です。ただし mental health は「心の健康(状態)」という程度の意味であり、それ自体に精神状態の良し悪しのニュアンスは含まれません。
mental illness だと重すぎる
「精神的に病んでいる」という意味では mental illness という英語表現が候補に挙がります。
ただし mental illness は、もっぱら医学的・病理的に疾患として扱われる「精神疾患」を指す語です。通俗的な意味における「メンヘラ」を指す語としては適切とは言えません。
mental disorder (精神病)、mentally unstable(精神不安定)、あるいは melancholy(憂鬱)などの表現も、やはり「メンヘラ」の意味にはふさわしいとは言えません。
他人に依存するさまを示す英語表現
メンヘラと言って表現したい主なニュアンスが「他人に過度に依存する」傾向であるなら、「粘着質」「執着心が強い」「人の気を引きたがる」というように言い換えればうまい英語表現が見つかります。
clinging(まとわりつく)
clinging は粘着・密着するさまを指す言い方です。clingy ともいいます。
基本的には、食べ物などが粘りつく様子、あるいは、衣服などがぴっちり体に密着する様子などを指します。
人物を形容して clinging あるいは clingy と述べる場合には、「甘えてべたべたする」「しつこく付きまとう」という意味を表現します。まさにべったりの状態。
破局して別れてから執拗に付きまとってくる元恋人は clingy ex といいます。ex は元カレ・元カノを指す俗な省略表現。
彼はまるで子どものようにベタベタする人だ
overly attached(ひどく執着する)
親愛の情があまりに強く、行きすぎてしまっている、という状況は overly attached と表現できます。
attached は基本的には「取り付けてある」「添付されている」といった意味ですが、「とても好きだ」「愛情を抱いている」という意味合いでも用いられます。attached 自体にはネガティブなニュアンスはありません。very attached くらいなら可愛いものです。
overly は、程度が甚だしく過度・過剰になっている様子を示す副詞です。overly attached と表現されるレベルになると「重い」「痛い」ニュアンスがいや増してきます。
needy (求めすぎる)
needy は動詞 need を形容詞化した語で、主に「物を必要とする=貧乏な」という意味で用いられる言い方です。また、情緒不安定だったり心理的な問題を抱えていたりして、心的関係を求める人を指す意味合いもあります。
needy girl は恋人に愛情をつぎ込んで欲しがる重い女。
attention seeker(注目されたがる)
attention seeker は、文字通りにいえば「注目を追い求める人」ですが、これは人の気を引くためなら何でもするような気質の人を指す言い方です。いわゆる「目立ちたがり屋」、あるいは「構ってちゃん」のことです。
text too much(連絡し過ぎ)
「粘着」や「執着」のような言葉で直接的に表現する言い方の他に、行動が一々極端だと表現してメンヘラ具合を表現する言い方もできます。
たとえば、She texts me too much. (メールを寄越しすぎ)とか、He calls me too much. (電話して来すぎ)のように述べれば、依存・執着がちょっと尋常でない様子は表現できます。
ちなみに text は文章の本文(テキスト)という意味から転じて「テキストメッセージを送信する」という動詞の用法が登場し、すでに一般に浸透しています。モバイル時代の新たな用法です。
精神状態の不安定さを示す英語表現
情緒不安定で気分の浮き沈みが激しいという性質も、心や病んでいると表現されがちな人の特徴的な傾向です。
些細なことで怒ったり拗ねたり泣いたりして、扱いにくい人。不機嫌になりやすい人。そうした視点で捉えると、また違った英語表現が見つかります。
moody(不機嫌・むら気がある)
moody は、「気まぐれ」「気分屋」「むら気」あるいは「不機嫌」「塞ぎ込む」といった意味で用いられる形容詞です。
気分がコロコロ変わる、しかも急激に変わる、簡単に怒ったり不機嫌になったりするような人は moody な人と形容できます。機嫌を損ねている人も moody な人です。
移り気・気分屋・躁鬱気味な傾向は mood swing とも表現できます。mood は気分・機嫌を指す名詞。
英語の moody は基本的にネガティブな心理状態(気分や機嫌)を指します。日本語では「何かイイ感じの雰囲気がある」というような意味合いで「ムーディーな曲」とか言ったりしますが、英語には本来こういうニュアンスはありません。
too emotional(感情的すぎる)
too emotional は「あまりにも感情的」と言って精神的な不安定さを表現する言い方です。
emotional は、人を形容する場合には、「感情的」「感情に動かされやすい」という意味合いで用いられます。これ自体は特にネガティブな意味はなく、すぐ感動・感激・感涙するような傾向も含みます。
up and down emotionally も「気分の浮き沈み(が激しい)」と表現する言い方として使えます。
insecure(精神的に不安定)
insecure は「不安定さ」を表現する形容詞です。人を形容する文脈では、自分に自信がなく心理的に不安定なさまを指します。
Insecure people have little confidence and are uncertain about their own abilities or if other people really like them
自分に 自信がなく、自分の力や他人からの好意が信じられない人
insecure は secure (安全・安定)に否定の接頭辞 -in を加えて「安定していない」と表現する語。副詞表現 insecurely は「危なっかしい」とも訳される表現です。
whiny(めそめそしている)
whiny は whine (すすり泣き)を形容詞化した語で、「泣き虫」「泣き言ばかり」「めそめそと泣く」「ぐじぐじと不平不満を漏らす」ようなさまを指します。
泣き虫毛虫の子どもみたいにヘソを曲げて不満を垂れている人を指す言い方です。
自分勝手なさまを示す英語表現
いわゆるメンヘラな人は、情緒不安定で依存しがちという傾向に加えて、多分に自己中心的な傾向があります。
自己中がすなわちメンヘラというわけではありませんが、自己中心的な考え方があってこそメンヘラ気質が生じます。
self-centered(自己中)
英語では self- の接頭辞を加えた表現で「自己中」に対応する言い方ができます。
たとえば、center(中心に置く)の語を応用して self-centered といえば「自分を世界の真ん中に置いた」「自分のことしか考えない」「自分が中心の」「自己中心的な」傾向が正に表現できます。
self-absorbed といえば「自分に没頭している」、つまり自分と自分のしていることにしか興味を持たない人を表現できます。
self-loving なら自己愛、つまり「自分の幸せしか考えない人」を表現できます。
selfish(自分本位)
selfish はたいてい「利己的」「身勝手」「自分勝手」などと訳される語で、他人への配慮に乏しく、自身の都合や利益を第一に置く人を指す言い方です。すなわち「わがまま」「自己中」。
selfish は叙述用法・限定用法どちらでも用いられますが、特に限定用法で「利己的な~」という形で多く用いられます。selfish act(自分勝手な行為)、selfish aim(自分勝手な目的)、selfish behavior(自分勝手な行動)等々。
egotistic(傲慢)
egoistic は「傲慢」「独善」、あるいは英語そのまま「エゴイスティック」と訳されることの多い表現です。自尊心が強い人、自分が人よりも優れている、他人よりも大切にされるべきといった考えを抱いている人を指します。
egotistical も egoistic と同じ意味・用法で用いられます。類似の表現である arrogant(傲慢)や selfish(身勝手な)と併せて用いられることが多々あります。
彼は傲慢で自分勝手だ。何が彼をそのようにしたのか不思議に思う