生ハムは、一般的なハムの製法の一部工程を除いて作られるハムの総称です。基本的には茹でて加熱する工程が除かれます。加熱しないということで「生」と形容されているのでしょう。
普通のハムは豚肉の塩漬けを燻製にして、さらに茹でる工程を経ます。生ハムは茹でる(加熱)処理を経ません。モノによっては燻製にもしません。
生= raw という辞書的な対応付けから推定して「生ハム → raw ham でイイんじゃないの」とする考え方は、どうも微妙なようです。
ウェブ上で検索して確認できる限り、raw ham と表現されている事例も全くないわけではありませんが、圧倒的少数であり、しかもその過半数は日本のメディアによるコンテンツです。
とすると、ここは他の表現を探した方がよいでしょう。
そこそこ伝わる「生ハム」の英語表現
dry-cured ham (乾燥処理したハム)
英語表現として無難に目に付く語としては dry-cured ham が挙げられます。
普通のハムは茹でる工程によって加熱処理し、殺菌滅菌して保存性を高めています。生ハムの場合、加熱処理はせず、多くの場合は冷温で乾燥させることにより保存性を持たせています。すなわち dry-cured ham(乾燥により保存処理されたハム)というわけです。
prosciutto(プロシュット)
prosciutto はハムを指すイタリア語です。イタリア本国では prosciutto は豚もも肉のハム全般を指す語であり、必ずしも生ハムを指すとは限りませんが、英語では ham に対する生ハムを指す語として半ば定着しています。
ちなみに、イタリア本国では生ハムは prosciutto crudo (生のプロシュット)と表現されるようです。
iberian ham(イベリコ豚のハム)
イベリコ豚を使ったハムは、基本的にスチームで蒸さず塩漬けの後に乾燥させる(生ハムの)製法で作られます。「イベリコ豚のハム」といえば、ほぼ生ハムが念頭に置かれます。文脈にもよりますが、「イベリコ豚のハムが食べたい」と言えば「生ハムが食べたい」という前提まで伝わるでしょう。
イベリコ豚のハム(生ハム)を英語で言うと iberian ham のように言えます。本場スペイン語をそのまま借用した jamon iberico という言い方が英語で通じる場合もあります。
ハムは多種多様すぎるご当地食材であることを念頭に置く
ハムは西欧文化において長い歴史と伝統をもつ食品です。ビールやケーキと同様、ハム・生ハムも、地域ごとに製法や味が微妙に違ってくるものと心得ましょう。
生ハムの本場はスペイン
ホンモノの生ハムを食べたくて海を渡るという場合、どこを目指すべきかと問われたなら、イベリコ豚の産地であるスペインが最有力候補に挙げられるでしょう。 ハモン(jamon)はきっと理想的な生ハムを体現した姿に映るはずです。
イタリアも候補
prosciutto の語源であるイタリアもホンモノの生ハムに出会える地と言えるでしょう。現地では prosciutto はハム全般を指すため、いわゆる生ハムを注文する際には prosciutto crudo と表現しましょう。
そして日本に回帰
実際のところ、日本で販売されている生ハムの味わいが「いわゆる生ハム」そのものだった、という結論に落ち着く場合も結構あり得る気がします。日本の食はある意味で変態的。国内事情を研究し尽くす甲斐はきっとあります。