英語の文章の中には、英語以外の言語の語彙が、元の言語そのままの表記や発音で用いられる場合もままあります。外来語と言うべきか、あるいは借用語と言うべきかもしれません。
英文を読んでいて外来語表現に出くわすと、戸惑いや混乱が生じがちです。英語知識をかき乱されないように注意しましょう。遭遇しがちな表現をあらかじめ把握しておくだけでも、勝手は大きく違ってくるはずです。
英語の中の外来語に注意が必要なワケ
言葉は異文化の言語から多かれ少なかれ影響を受けているものです。英語の中にも、他の言語文化から取り入れられた語彙が多数あります。
とはいえ、単に語源が外国語由来というだけなら、特に大きな問題は起こりません。その手の語は表記も発音も意味用法も英語に「帰化」済みといえます。完全に英語として学べます。
外来語として注意を要するのは、外国語のまま英語の中で使われているような表現です。そして、アルファベットを使用する西欧文化圏の言語がもとになっている語彙はかなり厄介です。
原語の表記がそのまま用いられるから厄介
英語の中の外来語の多くは、ヨーロッパの言語から導入された言葉といえるでしょう。特にフランス語とラテン語は、文化的優位が認められる背景もあり、原語そのまま使用される例が多く厄介です。(英語の中に帰化した語彙も数え切れないほどあるわけですが)
ドイツ語は、言語の系統がかなり近縁(同じゲルマン語派)に位置づけられることもあり、借用語としてそのまま英語に導入される例は少なめです。
表記や発音の体系が英語とは異質なので厄介
英語の中で外来語として(外国語のまま)用いられる単語やフレーズの中には、英語に対する理解に揺さぶりをかけてくるような表記や発音を含む場合がままあります。
- a la carte (← a は不定冠詞か? としても la は何?とか)
- en route (← en は冠詞か?前置詞か? そんな語はあったか?とか)
- déjà vu (← 上部のちょんちょんはアクセント記号だろうか?この単語にだけ?とか)
- coup d’état (← もはや全く読めないし意味も分からない、とか)
ニュースメディアによっては、 ’ coup d’état ’ のように引用符を付けて注意を促してくれることもありますが、必ずしも特別扱いされているとは限りません。
しかも、こうした外来語表現の中には、形容詞や副詞として文章上しれっと溶け込んでいるものが少なからずあります。固有名詞のように「某」扱いして済ませるわけにもいかなくなりがちです。
しかし、「 a la はフランス語の文法的要素」というような知識があらかじめ把握できていれば、実例に出くわしても混乱せずに読める、あるいは読み飛ばせるようになります。
たとえば café au lait なら、日本人でも「カフェオレのこと」と理解できる人は少なくないでしょう。そういう前知識を蓄えておくことが重要です。
英語でしばしば出くわす主な外来語表現
a cappella (アカペラ)イタリア語
a cappella は楽器伴奏のない歌唱だけの歌い方を意味する語です。日本語でも「アカペラ」で定着している語なので、意味はすんなり理解できるでしょう。形容詞として用いられます。
a cappella イタリア語由来の表現です。音楽用語といえばイタリア語。もちろん piano (ピアノ) や forte (フォルテ)もイタ語から英語に導入されています。
piano や forte は「英語に帰化した語」として扱ってしまえますが、a cappella は「a」の字がさも不定冠詞であるかのような面で切り離されている点が要注意。冠詞は別途必要です。
私たちはアカペラのミサ曲を歌った
à deux (2人で)フランス語
à deux も à という不定冠詞っぽい字が先行する語です。しかもアクセント記号のような符号つき。この à はフランス語の前置詞(つまり à deux は前置詞句)なのですが、英語では à deux をまとめて副詞に等しい表現として扱います。
à deux は「2人で」「2人に」といった意味合いです。
夫マーティンとすてきな週末に2人で湖水地方の豪奢なホテルに出かけるのが待ちきれない
―― The Telegraph, 29 SEPTEMBER 2017
à deux は「アデュー」ではない
à deux の発音は /ɑː ˈdəː/ 、「アーダー」のように聞こえる音です。
字面をなぞると何となく「アデュー」と読めそうな気もしますが、いわゆる別れの挨拶の「アデュー」は adieu と表記される別種の語彙です。ちなみに、adieu も仏語由来の語です。
ad hoc (アドホック) ラテン語
ad hoc は「その場の」「その場しのぎの」あるいは「臨時の」といった意味合いで用いられる、ラテン語由来の表現です。ITの分野に明るい方は「アドホックネットワーク」のような語で聞き慣れた語でしょう。
ad hoc は副詞もしくは形容詞として用いられます。どちらかといえば形容詞的な扱いが多く見られます。
インドバレーボール協会が臨時の会長を任命
―― The Hindu, NOVEMBER 05, 2017
al fresco (屋外で) イタリア語
al fresco は「屋外で」「戸外で」という意味を示す表現です。
al fresco はイタリア語です。al はイタリア語における、冠詞と前置詞が組み合わさった語形。
間を空けずに alfresco と表記される場合もあります。
au fait (精通している) フランス語
au fait はフランス語に由来する表現です。意味は「その道に詳しい」「精通している」「玄人」といったところで、もっぱら形容詞的に扱われます。
au fait は前置詞 with を伴って au fait with まで含めて一個の熟語として扱われる場合が少なからずあります。
競馬好きの大半は、ビーサン・ジーパン・腹出しルックを禁じるという厳格さで悪名高い場内のドレスコートについては熟知している
―― The Australian, November 7, 2017
blitzkrieg (電撃戦) ドイツ語
blitzkrieg はドイツ語の語彙で、字面どおり英語に置き換えれば lightning war と表現できる語です(ドイツ語は複数の語を結合させて1個の名詞として扱えます)。
ドイツ語の語彙はたいてい英語にも対応する語彙があるので、英語の中でドイツ語がドイツ語として用いられる例はまれです。
blitzkrieg は、ナチス・ドイツが編み出し、第二次世界大戦において実践した戦法です。つまり、この概念が登場したのはつい最近。そのため英語に帰化せずドイツ語のまま用いられているとも考えられそうです。
comme il faut (規範にかなっている) フランス語
comme il faut は社会的な儀礼・規範・礼節に適合している、という意味で形容詞的に用いられる表現です。上品・優美といったニュアンスも含みます。
これはオーケストラの演奏法だ。何の必要があって原曲そのまま、お行儀よく演奏しなければいけないというのか
―― The Jerusalem Post, OCTOBER 19, 2017
de facto (事実上の) ラテン語
de facto は日本語でも「デファクトスタンダード」(事実上の標準)という言い方でよく用いられる表現です。
表向きの言い分や理想ではなくて実質的・現実的には(実態としては)どうなのか、について述べる際に用いられます。
ちなみに、北朝鮮がロケットと称して打ち上げる飛翔体は、国内メディアはしばしば「事実上のミサイル」と表現しており、英語でも de facto missile と述べている例が見られるものの、英語のニュースメディアの大半はストレートに missile と言ってしまっています。
coup d’état (クーデター) フランス語
coup d’état は非合法手段によって政府を打倒し政権を奪取・掌握する行為を指す語です。仏語由来の語彙です。
d’étatという表記は、フランス語に通じていない身にとっては違和感の塊です。英語圏でも、単に coup とだけ述べる略語的な言い方がしばしば用いられます。
元内務大臣いわく、軍事クーデターはジンバブエからは排除しきれない
―― News24, 2017-11-08
フランスは市民革命やクーデターよって国政が動いてきた歴史を持つお国柄です。blitzkrieg といい coup d’état といい、外来語が文化の一端を垣間見せてくれているかのようです。
en masse (共に・一緒に) フランス語
20数匹ものタコが大挙して岸に這い上がる、その理由は一切謎
―― Washington Post, October 30
en passant (ちなみに) フランス語
en passant は「ちなみに」「ついでに」の意味で用いられ、英語のin passing に対応するフランス語です。 in (~するときに)と pass (通過する)を合わせて、「通りがかりに」といった意味合いから生じた言い回しです。
彼女は話のついでに、前の週はロサンゼルスにいたことに触れた
―― Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus ? Cambridge University Press
「ちなみに」を表すより一般的な語には by the way があります。 en passant (in passing) も by the way も《移動》に関する言葉から生まれた便利な表現です。
ex-gratia (任意で) ラテン語
ex-gratia は、主に法律文書などで「(法律の規定によるものではなく)任意で」という意味で用いられるラテン語からの表現です。そのまま英語にすると、out of grace(「好意からの」)となります。形容詞として用いられる場合がほとんどです。
fait accompli (既成事実) フランス語
fait accompli は「既成事実」を表すフランス語の表現です。全体で一つの名詞として用いられるので、a や the などの冠詞もしっかりとつくことに注意しましょう。
これが既成事実、つまりはもうひっくり返すことができないものだということは承知している
――The New York Times, APRIL 3, 2015
faux pas (過失) フランス語
faux pas は「過失」や「失策」を表すフランス語です。特に、fashion faux pas の形で、「ファッションの失敗」すなわちセンスのないファッションを表す用法が多くみられます。英語圏でも、フランスはおしゃれの国というイメージがあるため、フランス語からとった表現を使ってファッションを語ることで、洒落た(時に押しつけがましい)印象を与えるでしょう。
昔であれば、彼女はそのような小さなファッションの失敗を無視していたかもしれない
――USA TODAY, 12 Jun 2012
inter alia (特に/とりわけ) ラテン語
inter alia は「特に」を意味する副詞的な表現です。英語の in particular や especially に近い表現です。学術的な文章など、極めてかたい文章で使われることが大半で、新聞や日常会話で目にすることは多くありません。
ipso facto (事実として) ラテン語
ipso facto は「事実として」の意味を表すラテン語の表現です。facto は「事実」を表す語で、de facto (「事実上の」)という表現にも使われています。見た目通り英語の fact にあたります。
彼は、スーツとネクタイをしている人ならば事実上誰もが保守派だと考えている
――The Merriam-Webster Learner’s Dictionary
je ne sais quoi (名状しがたいもの) フランス語
je ne sais quoi は「名状しがたい・うまく言葉で表現できないようなもの」を指す言い方です。特に好意的・肯定的に評価する意味合いで用いられます。人の魅力や料理、芸術などの文脈で、うまく表現しきれないが素晴らしいものといったニュアンスで用いられます。曖昧さを多分に残す表現ですが、英語固有の言い方や考え方とは一味違う、独特で味わい深いことばです。
きつくコルクをしたワインは冷蔵庫で1週間ほど保存が効き、料理に使えばその言葉にできない絶妙なものをもたらしてくれます
――the San Francisco Chronicle, Wednesday, January 15, 2003
magnum opus (最高傑作) ラテン語
magnum opus はラテン語で、作家や芸術家などの「最高傑作」を意味する表現です。元々は英語の a great work (素晴らしい作品)に相当する言葉ですが、ラテン語表現まで使って表すほどなので、世界的に有名な映画監督や歴史に名を遺す文豪などの作品に対して用いることが主です。
彼の最高傑作、『タイタニック』
modus vivendi (生活態度、暫定協定) ラテン語
modus vivendi は mode of living にあたるラテン語表現で、本来は「生活態度」「生活様式」の意を表しますが、新聞やニュースなどでは政治的な用語として、紛争や国際問題に際して結ばれる「暫定協定」を表す用法が一般的です。
その合意はまた、1979年のエジプトとイスラエル間の平和条約につながる流れを作り、21世紀にとうに突入してからも続くイスラエルとシリアの間の暫定協定を安定化させるのにも役立った
――The Atlantic, May 2013
objet d’art (美術品、骨董品) フランス語
objet d’art は object of art に相当するフランス語で、美術品や骨董品を表す表現です。もちろん、英語で美術品を an art object 、骨董品を an antique などと表現することもできますが、より洒落た表現として、あるいは「芸術的、文化的価値がある」というニュアンスを強く指すために objet d’art を用いることがあります。
自家製の炭酸水を好む人々が、自分でソーダマシンを使って水を吸い上げるときに綺麗に見えるように、彼はその機能的な装置を改造して台所を彩る美術品として仕立て上げたのだ
――the San Francisco Chronicle, Sunday, January 15, 2012
per se (それ自体は) ラテン語
per se はラテン語で「それ自体は」を表す副詞的な表現です。英語にみられる多くの外来表現が、一部のかたい文章や、特定のニュアンスを出すために限定的に用いられますが、per se は会話やニュース記事も含めて、日常的にも用いられる汎用性の高い言い回しです。
イスラエル・パレスチナ自体が重要でなくなってきているなか、エルサレムがあらゆる過激派たちにとって頭に浮かぶようになってくるかもしれない
――Pittsburgh Post-Gazette, Mar 8, 2015
quid pro quo (見返り) ラテン語
quid pro quo は何かに対する「見返り」や「代償」を表すラテン語からの表現です。ラテン語はスペルをローマ字読みすることでほぼ発音できるため、あえてカタカナで書けば「クウィッド・プロ・クォ」といった発音です。名詞的に使われるので、見返りとなるものが単数の場合には a quid pro quo 、複数の場合には quid pro quos という形をとります。
見返りは何もない
status quo (現状) ラテン語
status quo は「現状」を意味するラテン語表現です。「今現在」という、話し手にとって特定の時間における状況を指すので、 the がつくことが多いです。
「現状でうまくいくとは思えない」とホーファーリンは言った
――St. Louis Post-Dispatch, Jul 6, 2015
sui generis (独自の) ラテン語
sui generis は「その人、その物だけの」という意味合いを表す言い回しですが、かなり哲学的、学術的なニュアンスを含む表現です。
そのことによって言いたいのは、私は私以外何者でもない、完全に私自身に唯一の個人の人格を有する自己であるということ
――The Atlantic Monthly, June, 1996
特別な文脈でなく「独自の」や「唯一の」の意味を表したい場合には unique や of one’s own などの言い方がはるかに一般的です。
table d’hôte (定食) フランス語
table d’hôte はフランス語で「定食」を表す表現です。日本語で「定食」というと、大衆食堂や和食店などで、ご飯、汁物、おかずが大きなお盆に揃って出されるスタイルを想像しますが、欧米でいうtable d’hôteは、主にホテルで、あらかじめ決まった品目(サラダからデザート、紅茶まで)が次々に運ばれてくるいわゆる「コース料理」を指します。
schadenfreude (他人の不幸を喜ぶ気持ち) ドイツ語
shcadenfreude は「他人の不幸を喜ぶこと」を意味するドイツ語で、英語の一言二言ではうまく表しきれない概念としてしばしば取り上げられる言葉の1つです。
その政党が最初に底辺ヘの競争を始めたとき、私は他人の不幸を喜ぶ気持ちを抑えきれなかったのは確かです
――The New York Times, MARCH 3, 2015
これだけ複雑な感情をサクッとまとめてしまうドイツ語の表現力も驚くべきことですが、日本語でも俗にいう「メシウマ」や、決まり文句的に用いる「他人の不幸は蜜の味」といった表現がこれに近い感情を表しています。
kawaii (可愛い) 日本語
日本語の「可愛い」が意味も発音もほぼそのまま kawaii として使われます。ただ、何か可愛いもの見たときに一般的に用いられるというよりは、日本文化や日本人的な「可愛さ」について語る文脈で用いられるのが普通です。
「可愛い」スタイルはそこではとても人気があるものの、日本のファッション業界は海外での展開に苦労している
――The CS Monitor, DECEMBER 8, 2012
日本語にも英語の中で用いられる表現が沢山あります。その大半は名詞ですが、kawaii は独自のニュアンスで用いられる形容詞として用いられる稀な例といえます。
英語の中の外来語は適当にあしらおう
英語の中で外来語にでくわしても、それが外来語表現と分かっていれば、大きな混乱を招くこともなく、初見の英単語に接した体験と何ら変わらない知見を得ることができます。「こういう表現もあるのか。へぇ」と言ってあらたな語彙を認識把握するだけです。
外来語っぽいな、という段階まで推察できたなら、その表現自体はきっと無視しても文章は正しく読めます。前後の文章を要約したスタイリッシュな一言として挙げている場合がほとんどですから。