連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」エネルギーの研究をテーマに上坂先生に聞く

富山国際大学上坂 博亨先生

「電気はコンセントから来るもの」——そんな当たり前の考え方を、根本から変えてみませんか?

私たちの生活に欠かせない電気。しかし、その仕組みを深く理解し、エネルギーを「自分でつくる」ことを考えたことはありますか? 上坂先生は、小水力発電という再生可能エネルギーの研究を通じて、地域社会とエネルギーの自立を結びつける挑戦を続けています。

実は、研究の道は意外なところから始まることもあります。先生自身も、生物学から情報学、そしてエネルギー研究へと進み、多様な視点を活かしてきました。学問の世界は一つの道だけではなく、交差し、広がり、思わぬ発見につながるものです。

「自分の興味はどこにあるのか?」そんな問いを持つ高校生に向けて、本記事ではエネルギーの未来、研究の面白さ、そして進路を考えるヒントをお届けします。あなたの「学びたい」を刺激する一歩になるかもしれません。

上坂先生の研究と小水力発電の可能性

小水力発電とは?

―― 先生のご研究について、高校生向けに簡単にご紹介いただけますか?

上坂先生:
私の研究テーマは、小水力発電を活用した地域づくりです。小水力発電とは、川や用水路などの流れを利用して電力を生み出す、比較的小規模な発電方式のことを指します。これは、いわゆる再生可能エネルギーの一つで、地域の資源を有効活用しながらエネルギーの自給自足を目指すものです。

―― さまざまな発電方法がある中で、なぜ小水力発電を研究されているのでしょうか?

上坂先生:
発電所の出力にはさまざまな規模がありますが、私たちが扱っている小水力発電は「1000kW未満」のものを指します。これは、世帯数でいうと1000世帯から1500世帯程度の電力を供給できる規模です。たとえば、山間地の比較的大きな集落や、地域コミュニティ全体に十分な電力を供給できる可能性があります。

小水力発電の魅力は、地域に根ざした発電ができる点にあります。地域の水資源を活かして発電することで、エネルギーの地産地消が可能になり、結果として地域経済の活性化にもつながります。さらに、持続可能なエネルギーの供給を実現することで、地域住民の生活の質の向上や、新しいビジネスの創出にも貢献できるというわけです。

地域との密接な関わり

―― 先生の研究やゼミの活動では、地域とのつながりが強い印象を受けました。具体的にどのような形で地域と関わっているのでしょうか?

上坂先生:
富山県は、日本でもトップクラスの水資源を持つ地域です。特に「豊富な水量を持ち、経済的にも活用できる水力資源」が多く存在します。岐阜県や長野県も同様に水力資源が豊富な地域ですが、すでに大規模な水力発電所が開発されています。一方で、小規模な水力資源はまだ十分に活用されていません。

たとえば、富山県には大小さまざまな川や用水路が流れていますが、多くは発電には使われず、そのまま流れている状態です。しかし、こうした小さな水流も適切に利用すれば、地域のエネルギー源として十分な価値を持ちます。私の研究では、こうした未活用の水力資源を活用し、小規模な水力発電所を設置することで、地域の電力を自給できる仕組みを作ることを目指しています。そのために学生と一緒に地域に出かけて、地域の人たちと協力して調査を進めているというわけです。

―― 小水力発電によるエネルギー供給の対象となる「地域」とは、具体的にはどのような規模を想定されているのでしょうか?

上坂先生:
私たちが想定しているのは、数百世帯規模の地域です。具体的には、農山村の集落、地方都市の周辺住宅地、さらには観光地など、さまざまな地域で活用できる可能性があります。

たとえば、200世帯から300世帯が暮らす地域に小水力発電を導入すれば、その地域のエネルギー自給率を向上させることができます。また、発電によって生まれる経済的なメリットを地域に還元することで、地域活性化にもつながります。このように、小水力発電は単なる電力供給の手段ではなく、経済的に地域社会を支える大きな要素になり得るのです。

―― 地域の資源を活かした持続可能な発電が、地域の活性化にもつながるということですね。

上坂先生:
はい。小水力発電は、地域の人々が自らの手でエネルギーを生み出し、それを活用することで、地域の未来を切り拓く力を持っています。日本にも昔はそういう地域がたくさんあったんですよね。こうした取り組みを通じて、地域の課題を解決しながら、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

小水力発電研究への道のり

生物学からエネルギー研究へ

―― 先生が小水力発電の研究に進まれたきっかけについて教えてください。

上坂先生:
実は、私はもともと生物学を専門にしていました。大学院では基礎生物学を研究し、社会との直接的なつながりを意識することはほとんどありませんでした。その後、研究職には進まず、富士通に就職して約10年間、コンピューターや情報科学の分野で働きました。そこから大学に戻ることになり、富山国際大学で情報学の教員として着任したんです。

そんな中、2005年ごろにある先生から「富山県には水資源が豊富だから、小水力発電の研究をやってみたらどうか?」と提案されました。最初は「なぜ情報学の私が水力発電を?」と戸惑いましたね。でも、調べてみると富山県は日本でもトップクラスの水資源を誇り、しかも未活用の小規模な水力が数多く存在していることがわかりました。

情報学の視点からでも、地域のエネルギー管理やデータ分析といった形で貢献できる部分があると気づき、思い切って研究を始めてみることにしたんです。結果として、小水力発電は単なる技術研究ではなく、地域の活性化や経済効果にもつながる非常に面白い分野だと実感しました。

社会との接点を持つことの大切さ

「やりたいこと」は経験の中で見つかる

―― とても面白いキャリアを歩まれている上坂先生ですが、例えば高校生から「やりたいことが見つからない」と相談をされたらどのように答えますか?

上坂先生:
私は、やりたいことは「自分の経験の中からしか出てこない」と思っています。ほとんどの高校生は、家と学校を往復する生活の中で、受験勉強に励んでいます。でも、それだけでは、自分が本当に興味を持つことや、社会で求められていることを知る機会が少ないんですよね。

だからこそ、積極的に社会と関わることが大切です。たとえば、地域活動に参加する、街中の講演会に足を運ぶ、一人旅をしてみるなど、新しい経験をすることで、初めて「自分はこういうことに関心があるんだ」と気づくことができます。

私は大学生には「海外に行け」とよく言っています。海外に行くと、圧倒的に日本の日常とは違う価値観や文化に触れ、自分がどれほど知らないことが多いのかを痛感します。まずパスポートを取る、飛行機に乗る、それだけでも日本では経験できない学びがあります。そして、現地で言葉が通じず苦労することで、「だから英語を勉強するんだ」と実感するんですよね。

―― まずは様々なことを身近に感じるステップが必要、ということですね。

「電気は自分で作れる」ことを知る

―― では、先生の研究分野であるエネルギーについて、高校生が身近に感じられるような具体的な取り組みはありますか?

上坂先生:
富山県には、たくさんの用水路があり、年中水が流れています。高校生の中にも「用水路を使って発電できないか」と相談してくる生徒がいます。そういった生徒と一緒に簡単な水車を作り、実際に発電実験をすることもあります。

このとき、必ずと言っていいほど、高校生たちは「電気って意外と簡単に作れるんですね」と驚きます。これは私にとって、とても嬉しい瞬間です。というのも、電気やエネルギーについて、ほとんどの人が「コンセントに差し込めば使えるもの」としか考えていないからです。

私の大学の学生でも、「家庭に来ている電気の電圧は何ボルト?」と聞くと、8割くらいの学生が答えられません。それほど電気の仕組みについて無関心なのが現状です。でも、ちょっと知識があれば、たとえば災害時に「携帯の充電なら太陽光でできる」と気づくことができる。30cm四方の太陽光パネルが1枚あれば、スマホの電源に困ることはないんです。

「電気は自分で作ることができる」。このことに気づいてもらうことが、私の教育の大きな目的の一つでもあります。

「電気の刺身化」への警鐘

―― 確かに、普段生活していると「作る」ということに意識が向かず、「電気は当たり前にあるもの」という意識が強いですよね。

上坂先生:
そうなんです。私はこれを「電気の刺身化」と呼んでいます。スーパーに並んでいる刺身を見て、その魚がどんな姿で泳いでいたのかを想像できないのと同じで、電気もどこでどのようにして作られてどうやって家庭まで来ているかなんてどうでも良くて、「コンセントに差し込めば使えるもの」としか認識されていないと思うんです。

その結果、停電になったときに「電力会社に電話する」くらいしか対策を考えられない。ですが、電気の仕組みを少し知っていれば、例えば太陽光発電や小水力発電で電気を自給することも可能だと分かるはずです。

高校生には、まず身近なところからエネルギーに興味を持ってほしいですね。たとえば、街中の電柱に耳を当ててみると、ブーンという音が聞こえます。これは、電気が流れる音なんです。「え?電気の音?じゃあその正体は何?」。こんな小さな気づきが、エネルギーへの関心につながるのではないでしょうか。

―― 実際に体験しながら学ぶことで、社会とのつながりやエネルギーの大切さを実感できそうですね。

上坂先生:
そう思います。エネルギーや電気は、生活の基盤を支える大切なものです。高校生の皆さんには、ぜひ身の回りの仕組みに目を向け、自分の手で体験しながら学んでいってほしいですね。

デンマークのエネルギー政策と学び

― ところで、先生はデンマークへ学生を連れて行かれるとお聞きしました。デンマークは電力に関しては先進的なイメージがありますが、学生たちはどのようなことを学んでいるのでしょうか?

上坂先生:

デンマークは風力発電の先進国で、1972年のオイルショックをきっかけに、エネルギー自給率を2%からわずか25年で100%にまで高めました。その後、2005年頃には150%を超え、エネルギー輸出国になっています。この驚異的な変化の背景を学ぶために、学生たちを連れていきます。

デンマークでは風車があちこちに建てられており、それがどのようなプロセスを経て普及したのかを現地で学びます。また、環境先進国としても知られ、ゴミの分別は45種類にも及びます。それでも国民が嫌がらずに分別するのは、環境教育がしっかりと行われているからです。こうした国民意識の違いも学ぶ重要なポイントです。

また、日本では「燃えるゴミ」として処理されるものが、デンマークではすべて火力発電に回されます。さらに、イギリスやドイツから燃えるゴミを買い取り、それを燃料にして発電し、その電力を再び売るという、経済的にも合理的な仕組みを持っています。このような循環型社会の実態を学生たちに体験させるのが目的です。

― 実際に体験することで学生はよりより多くの興味関心を持てそうですね!

小水力発電の魅力と地域再生への可能性

― 先生が研究を続けてきた中で感じる、この分野の最大の魅力は何でしょうか?

上坂先生:
小水力発電の研究は、最先端技術のような派手さはないかもしれません。しかし、この研究の本当の魅力は、「地域を元気にすること」にあります。

日本の多くの地方が、少子高齢化や人口減少により衰退していく中で、特に山間地域では集落が縮小し続けています。こうした地域がなくなると、河川管理が難しくなったり、水源地が適切に管理されなくなったりと、深刻な影響が出ます。また、最近では外国資本が日本の山林やスキー場を買収し、独自の開発を進めるケースも見られます。そうなると、河川の上流側が他人の手に渡るわけですから、大切な水源地域の環境保全が疎かになり、水質悪化などの問題も発生してしまうのです。

小水力発電は、こうした地域に「経済的な利益」と「希望」をもたらす力を持っています。たとえば、100人規模の集落で年間3000万〜4000万円の収益が生まれるとなれば、それだけで地域の経済が大きく変わります。そして、収益が出ると「次に何をしようか?」と地域の人々が考え始め、町おこしや新たな事業の展開へとつながっていくのです。

この地域が活性化していく姿」を見ることが、私にとって最大の喜びです。さらに、小水力発電は一度設置すれば50年、長ければ100年動き続けるものです。自分が立ち上げたプロジェクトが、50年後、100年後にどうなっているのかを想像すると、本当にワクワクします。

― 小水力発電以外にも、地域によって適した再生可能エネルギーは異なるのでしょうか?

上坂先生:
その通りです。小水力発電は、水が豊富で山が多い地域に適しています。例えば富山県や岐阜県、長野県などですね。

しかし、関東平野のように冬は晴天が多く、山が少ない地域では、太陽光発電の方が向いています。また、海沿いで強い風が吹く地域では、風力発電が適しているでしょう。再生可能エネルギーは、その土地の地形や気候条件に大きく影響されるため、それぞれの地域に適した方法を選ぶことが重要です。

高校生の皆さんも、自分の住んでいる地域にどんな特性があるのかを考え、「この土地ならどんなエネルギーが活用できるのか?」と想像してみると、面白い発見があるかもしれませんね。

持続可能な社会を目指して

― 先生の研究を通じて、日本の未来にどのような影響を与えるとお考えですか?

上坂先生:

日本は現在、使用するエネルギーの約85%を海外からの輸入に頼っています。これは、国際情勢の変動によって大きな影響を受けることを意味します。例えば、原油価格の高騰や為替の変動によって、私たちの生活や経済が左右されてしまうのです。加えて、 CO₂排出量の削減という課題もあり、2050年のカーボンニュートラル達成が求められています。

そのため、再生可能エネルギーの開発は必須です。特に、地域ごとに適したエネルギー資源を活用し、自給自足の仕組みを作ることが重要になります。例えば、山間部では小水力発電、日照時間の長い地域では太陽光発電、海風の強い沿岸地域では風力発電が有効です。

私は、このような地域ごとの特性を活かしながら、持続可能なエネルギー供給システムを確立し、地域の自立を支援していきたいと考えています。

高校生へのメッセージ

― 進路を考える高校生へ向けて、どのようなアドバイスがありますか?

上坂先生:

進路を考える上で大事なのは、「やりたいこと」を探すことですが、それがすぐに見つかる人は少ないものです。ですので、大学を選ぶ際には、学部名や偏差値だけでなく、どんな先生がいるのか、どんな研究が行われているのかを調べることが大切です。

また、進路は一度決めたら終わりではなく、専門は変えられるし、やり直しはいくらでもできます。ですから、いろいろな事にチャレンジしてみて「没頭できるものを一つ見つける」という姿勢を持ってほしいですね。

― 大学で学ぶ前に、高校生のうちに身につけておくべきことはありますか?

上坂先生:

大学では「コミュニケーション力」が求められますが、それは単に話せることではなく、「話したいこと」「聞きたいこと」を持つことが重要です。そのためには社会に出て、多くの経験を積むことが必要です。例えば、自分の住んでいる地域をもっと知ることも大切です。観光地や歴史的な場所を訪れたり、地域の課題を自分の目で確かめたりすることで、新しい興味や疑問が生まれます。

また、特にエネルギーや環境の分野に興味があるなら、高校で学ぶ物理や化学の知識は欠かせません。水力発電には流体力学や電気の基礎知識が必要になりますし、社会学の中でも理系の知識が求められる場面が多々あります。文系だからといって理科を軽視せず、基礎的な知識をしっかり身につけておいてください。

― 先生の専門である環境やエネルギーの分野には、どのような人が向いていると思いますか?

上坂先生:

この分野では、地域の人々の気持ちを理解できることが大切です。例えば、地域の公共交通を研究している学生は、家族の経験から「高齢者が移動手段に困っている現状」に関心を持ち、研究に没頭しています。実体験に基づいた問題意識があると、より深い研究ができるのです。

また、エネルギーに関する研究には計算能力も必要です。水力発電の効率を考えるには、物理学の知識が欠かせません。社会学の分野でもデータを扱う場面は多いため、「文系だから数学や物理は不要」という考えは通用しません。

最後に、社会を支える基礎的な知識を持つことが、今後ますます重要になります。例えば、電気の仕組みを知らなければ、エネルギー政策の問題点も理解できません。水素自動車が普及するにしても、その安全性や取り扱いの難しさを知らないと、適切な判断ができません。

私の授業では「エネルギーリテラシー」という言葉を使っていますが、これは単に技術を知ることではなく、社会で必要とされる知識を身につけることを意味します。日本では理系科目を敬遠する傾向がありますが、高校1年ぐらいまでの理科や数学の知識は社会を理解する上で不可欠なんです。と言うか、世の中は文系か理系だけでできているわけじゃないですよね。「理系の科目を簡単に捨てないで!」と声を大にして言いたいですね。

これからの未来を担う高校生の皆さんには、広い視野を持ち、社会の問題を自分ごととして考えられるようになってほしいと思います。

まとめ

上坂先生の研究は、単なる発電技術の開発ではなく、地域の活性化やエネルギーの自立を目指すものです。小水力発電は、地域の資源を有効活用しながら、持続可能な社会を築く鍵となる技術です。

先生ご自身のキャリアも、生物学から情報学、そしてエネルギー研究へと広がり、研究とは予期しない出会いから生まれることを示しています。このように、自らの興味や得意分野を活かしながら、社会に貢献できる道を模索することの大切さが伝わってきます。

やりたいことは、経験の中から見つかるというお話も印象的です。失敗がないことが失敗、とはよく言いますが、ぜひ高校生の皆さんもたくさんの失敗を進んで経験し、良い進路につなげていきましょう!

連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」国際教育をテーマに市瀬先生に聞く

 

市瀬教授

高校生にとって、大学でどのような学問が学べるのかを知ることは、進路選択の大きなヒントになります。連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」では、各分野の専門家にインタビューを行い、学問の魅力を探ります。 

今回は、「国際教育」を専門とする宮城教育大学の市瀬智哉先生にお話を伺いました。 

✔ 国際教育とはどのような学問なのか? 

✔ 日本と海外の教育にはどのような違いがあるのか? 

✔ これからの時代に必要な学びとは? 

国際社会で求められるスキルや、高校生が今からできることについて、先生の研究をもとに詳しく解説していただきました。 

先生の専門分野について 

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国際教育がご専門とのことですが、具体的にどのような研究をされているのでしょうか? 

市瀬先生:
国際教育と一口に言っても、その範囲は非常に広いです。私が取り組んでいる国際教育の研究は、世界の教育の変化を踏まえ、日本の教育が国際的な潮流に適応できるようにすることが大きなテーマです。 

例えば、以前は知識や技能を習得することが教育の中心でしたが、近年では 「コンピテンシー(資質・能力)」 を育成することが重要視されています。これは、単に知識を蓄えるのではなく、思考力や問題解決力、コミュニケーション能力など、変化の激しい社会を生き抜くための力を養うものです。 

また、持続可能性(SDGs)や気候変動教育 など、これからの社会で欠かせないトピックも国際教育の重要な要素となっています。日本の教育が世界の教育のトレンドを適切にキャッチアップし、国際社会の中で議論できるような力を育てるための研究を行っています。 

国際教育というと、やはり海外の教育の在り方を学び、日本の教育に活かしていくということなのでしょうか? 

市瀬先生:
それもありますが、もう少し具体的に言うと、私は 「日本の学校の国際化」 というテーマにも取り組んでいます。私立の学校では国際化が進んでいるところも多いですが、私は公立学校や地域の学校も含めて すべての学校が国際化を進めていくべき だと考えています。 

そのためには、国際理解教育 が不可欠です。国際理解とは、単に外国の文化を学ぶことではなく、人権や平和、環境保護など、世界共通の課題について 国際的な視点を持って考えられる力を育てること です。これによって、生徒たちは自分たちの地域や社会が、世界とどうつながっているのかを実感できるようになります。 

さらに、日本は今後、 外国人の児童生徒が増えていく ことが予想されます。現在でも多くの外国にルーツを持つ子どもたちが日本の学校に通っていますが、彼らが 日本の教育システムの中で適応しやすい環境を作ること も重要です。そのための取り組みや、地域の学校がどのように国際的な環境を整えていくかといった点も、私の研究の範囲に含まれています。 

国際教育といっても、海外に目を向けるだけでなく、日本の教育環境自体をより開かれたものにすることも大切ということですね。 

市瀬先生:
そうですね。国際教育は決して「海外で学ぶこと」だけではなく、日本国内で多様な価値観を受け入れ、国際的な視点を持つこと も含まれています。そのため、地域の学校や公立校にも広がるような仕組みづくりが必要だと考えています。 

公立高校における国際教育の課題と可能性 

私立高校では国際化が進んでいる一方で、公立高校ではなかなか導入が進んでいない現状があるかと思います。その理由として、どのような課題があるのでしょうか? 

市瀬先生:
おっしゃる通り、私立高校は国際化を学校の特色として打ち出しているところが多く、英語教育や海外との連携も進んでいます。一方で、公立高校では 国際化に対する関心や必要性が地域によって異なる という課題があります。 

特に都市部では、街自体がグローバル化を志向し、学校の国際化も自然な流れで進んでいます。しかし、地方では必ずしもそうとは限りません。例えば、東北地方のように 地域全体が国際化を志向していない 場合、学校単位で国際教育を進めることの優先度が低くなりがちです。また、教師自身が 「国際教育は自分に関係のない話」 と捉えてしまうこともあり、結果として学校の取り組みが限定的になってしまうという壁があります。 

公立高校でも国際教育を広げるためには、どのような仕組みが必要でしょうか? 

市瀬先生:
国際教育を進めるためには、「国際理解教育」を より多くの学校で当たり前のものにしていく 必要があります。これは、単に英語を学ぶことではなく、人権や平和、環境問題など 世界的な課題を多角的に学ぶこと を指します。 

また、日本に増えている外国ルーツの児童・生徒への対応 も重要なテーマです。国際教育は、海外の情報を取り入れるだけでなく、多文化共生の視点を持つこと でもあります。こうした教育を すべての公立高校で進めていく ためには、地域の特色を活かしながら、少しずつ意識を広げていくことが求められます。 

SDGsESD(持続可能な開発のための教育) 

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SDGsを達成するための教育として「ESDEducation for Sustainable Development)」が重要視されていますが、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか? 

市瀬先生:
持続可能な社会を作るためには、それを実現するための教育が不可欠です。その役割を担うのが ESD(持続可能な開発のための教育) です。 

実際、近年の小中高の教科書には SDGsのマークや記述 が増えており、学びの中で持続可能性に触れる機会が増えています。しかし、問題は SDGsを意識せずに授業を進めてしまうこと」 です。せっかく教科書に載っていても、先生がその意義を伝えなければ、生徒の学びにはつながりません。 

生徒が主体的にSDGsに取り組むための学習方法として、どのようなものがありますか? 

市瀬先生:
最近、「探究学習」や「課題研究」 が大学入試にも影響する形で広がっています。この中で、SDGsをテーマにした研究を進める生徒も増えています。 

例えば、生徒が「どうすれば地域の二酸化炭素排出量を減らせるか?」や「循環型社会を実現するために何ができるか?」といった問いを立て、地球規模の課題を 自分たちの生活や地域と結びつけながら探求する スタイルが広まっています。このようなアプローチは、学びをより 実践的かつ主体的なもの にする上で非常に効果的です。 

また、一部の地域では ユネスコの支援を受けた課題研究の発表会 も行われており、生徒が国際的な課題について深く考え、発信する機会が増えています。こうした取り組みがさらに広がれば、高校生のうちから グローバルな視点を持ち、社会課題に貢献する力を育む ことができると考えています。 

教育学への関心と国際教育への道 

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市瀬先生は、もともと教育学を専門にされていましたが、国際教育という分野に進まれたきっかけは何だったのでしょうか? 

市瀬先生:
私自身、もともと異文化や異民族といったテーマに興味を持っていました。しかし、それらをただ観察するだけでは社会に貢献する手段にはならないと感じていました。 

そこで、「何かスキルを持つことが必要ではないか」と考えるようになりました。例えば、農業、科学技術、教育といった分野で専門的な知識や能力を身につけることで、社会に対して より具体的な形で貢献できる と思ったのです。その中で 「教育」という分野にこそ、自分の関心と社会貢献の可能性がある と気づき、教育学を志すようになりました。 

教育というのは、単に知識を伝えるだけではなく、子どもたちを育て、世の中を変えていく手段 になり得ます。特に国際教育の分野では、世界的な視野を持ちながら、地域や社会に対して影響を与えられる可能性があります。その点に魅力を感じ、研究を続けています。 

国際学部や国際系の学部は高校生にも人気ですが、そこで学ぶことが実際のキャリアにつながるのか不安に思う高校生も多いと思います。先生はどのように考えていますか? 

市瀬先生:
確かに「国際学部に進みたい」と考える高校生は多いです。しかし、実際に進学した後、「国際的な仕事がしたいけれど、具体的に何をすればいいのかわからない」 という悩みを抱える人も少なくありません。 

例えば、「国連で働きたい」と考える人も多いですが、国際機関で活躍するためには、単なる語学力だけでなく、専門的なスキルや知識が必要 になります。実際に国際機関で働いている人たちは、医療・福祉・農業・教育・環境など、何かしらの専門分野を持っている ことがほとんどです。 

つまり、「国際的な仕事をしたい」のであれば、まずは自分の専門分野を確立することが重要 です。高校生のうちから「どのような分野で力を発揮できるのか」を考えながら学ぶことが、将来のキャリアにつながると思います。 

国際社会に貢献するためには、どのような力を身につけるべきでしょうか? 

市瀬先生:
国際社会で活躍するためには、まず 「専門性を持つこと」 が大切です。そして、それを支える 「創造力」や「問題解決力」 も必要になってきます。 

国際教育の分野では、単に知識を学ぶのではなく、「どうすれば社会をより良くできるか?」を考え、実行する力を育てること が重要視されています。例えば、持続可能な社会を目指すためのプロジェクトを企画したり、地域課題を解決するためのアイデアを提案したりすることが求められます。 

また、英語での議論力 も欠かせません。今、世界では東南アジアやヨーロッパ、インド、アフリカなど、多くの国の人々が英語を使って議論し、国際的な問題解決に取り組んでいます。しかし、日本ではまだ「英語を使って議論する」ことが日常的ではなく、その点でハードルを感じる人も多いです。 

英語を使った議論力を身につけることは、国際社会での活躍につながりますし、それは単に「英語が話せる」こと以上の意味を持ちます。「自分の考えを整理し、他者と意見を交わしながら、新しい価値を生み出す力」こそが、これからの時代に求められるスキルです。 

高校生の皆さんには、ぜひ「自分はどの分野で貢献できるのか?」を考えながら学びを深めてほしいと思います。 

国際教育と持続可能な学び:日本と海外の比較 

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市瀬先生、日本の教育におけるSDGsESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みについてお話しいただきましたが、海外と比較するとどのような違いがあるのでしょうか? 

市瀬先生:
国際教育という視点では、北欧の国々の取り組みが特徴的です。北欧では、知識や技能の習得だけでなく、社会に貢献するためのスキルを育てることが重視されています。 

例えば、民主主義的な議論の場を設けたり、リーダーシップを育成する教育が実践されています。日本ではまだ十分に普及していませんが、探究学習やプロジェクト型学習などを通じて、そうしたアプローチが少しずつ広がっています。 

日本でも探究学習の取り組みが進んでいるということですね? 

市瀬先生:
はい。一部の学校では、SDGsをテーマにした課題研究を行い、生徒が地域社会の課題に対してアプローチを考える機会を提供しています。また、ユネスコが主催する課題研究の発表会などを通じて、生徒が研究の成果を発表する場も増えています。 

ただし、こうした取り組みはまだ教育全体の主流にはなっていません。今後、より多くの学校で取り入れられることが期待されます。 

教育の中で課題となる点は何でしょうか? 

市瀬先生:
日本の教育における課題の一つは、創造性(クリエイティビティ)を育てる機会が十分ではないことです。これまでの教育は「正解を求める学び」が中心で、新しいアイデアを生み出す力を伸ばす機会が限られています。 

また、探究学習が広がってきたとはいえ、一部の生徒だけが積極的に取り組む状況もあります。持続可能な社会を作る学びは、一部の生徒だけが取り組むものではなく、より多くの生徒が参加できる形が理想的です。 

国際教育が拓く未来:高校生へのメッセージ 

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市瀬先生、これからの社会を生きていく高校生に向けて、どのような意識を持つことが大切だとお考えでしょうか? 

市瀬先生:
これからの時代、持続可能な社会の実現や国際的な課題解決に取り組むことが求められますが、それは一部の人だけが関わるものではありません。例えば、私立の学校や意識の高い生徒だけが「持続可能性が大事だ」と言って取り組むのではなく、もっと広い層の生徒が関心を持ち、行動できる環境が必要です。 

そして、それは単に「社会のため」にやることではなく、個人にとっても大きな価値を持ちます。なぜなら、こうした課題に向き合い、創造性を発揮できる人材こそが、これからの社会で評価されるようになるからです。社会に貢献しながら、自分のキャリアを築くことができるという視点を持つことが大切だと思います。 

もう一つ大切なのは、英語で議論する力 です。世界では、東南アジア、ヨーロッパ、インド、アフリカの人々も、当たり前のように英語を使って議論をしています。しかし、日本ではまだ「英語を話せる」こと自体が特別なこととされ、実際に意見を交わす機会が少ないのが現状です。 

英語はただの「勉強」ではなく、他者と考えを共有し、新しいアイデアを生み出すためのツールです。ですから、高校生の皆さんには、英語を通じて自分の意見を発信し、世界の人々とコミュニケーションを取る力を身につけてほしいと思います。 

英語教育については、日本の公教育も力を入れ始めている印象がありますが、それでも課題は残っているのでしょうか? 

市瀬先生:
そうですね。日本の学校教育は、文法や語彙の習得には力を入れていますし、公教育の質も決して低いものではありません。ただ、それを「実際に使う機会」が少ないのが課題です。 

英語が話せない理由を「学校教育のせい」だとする声もありますが、それだけではないと思います。社会全体で英語を使う場が増えないと、生徒たちも「英語は勉強するもの」という意識のままになってしまいます。 

ですので、学校だけでなく、社会全体で「英語を使って議論する場」を増やしていくことが大切です。英語を話すことを特別視するのではなく、「当たり前のこと」として捉えられるような環境を作っていけるといいですね。 

学問を追求することの魅力 

最後に、市瀬先生にとって「研究」や「学問を追求すること」の魅力とは何でしょうか? 

市瀬先生:
やはり、何かに没頭できること自体が魅力ですね。研究をしていると、本当に時間を忘れることがあります。それだけ夢中になれるというのは、とても楽しいことですし、知的な探究の喜びを感じます。 

また、自分が考えたことや試行錯誤したことが、少しずつでも社会を動かしたり、教育の現場に影響を与えたりするのを実感できるのは大きなやりがいです。一度に大きな変化を生むわけではありませんが、積み重ねが未来を作っていくのだと感じています。 

高校生の皆さんにも、ぜひ「何かに没頭する経験」をしてほしいと思います。それがどんな分野であれ、興味を持ったことを深く探求することが、将来の選択肢を広げてくれるはずです。 

まとめ:国際教育の可能性と高校生へのメッセージ 

国際教育は一部の人のためのものではなく、社会全体で考えるべき重要な学びです。世界の課題を知り、自分に何ができるかを考えることが、これからの時代に求められる力 になります。 

また、英語は「勉強するもの」ではなく、「使うもの」。世界では当たり前のように英語で議論が行われています。 

学問を深めることは、自分の興味を追求し、社会を動かす力にもなります。夢中になれるものを見つけ、学び続けることが未来につながります! 

連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」多様な学問を今に結び付けて研究を広げる片山先生に聞く

名古屋女子大学       片山直美

高校生にとって、大学でどのような学問が学べるのかを知ることは、進路選択の大きなヒントとなります。連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」では、各分野の最前線で活躍する専門家にインタビューし、学問の魅力やその背景に迫ります。 

今回は、味覚・嗅覚・咀嚼力の変化の研究から、宇宙食の開発、さらには平衡機能や宇宙酔いに至る、幅広い分野で活躍される片山先生にお話を伺いました。 

 工学からキャリアをスタートさせ、調理や栄養学、そして宇宙医学へと道を広げた片山先生の独自の歩みは、「好き」を追求する情熱が未来を切り拓く好例です。インタビューでは、先生がこれまで歩んできた人生をお伺いしながら、「過去の経験」がいかに「今のキャリア」に結び付くのか、その魅力と可能性に迫ります。 

片山先生の研究分野とは? 

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— まず、先生が現在取り組まれている研究について教えていただけますか? 

片山先生:
現在は、味覚・嗅覚・咀嚼力の変化について、年代ごとの違いや都市部と地方での比較を行う研究を進めています。これは、前向きコホート研究といって、毎年同じ対象者や地域の方々に協力してもらい、長期的にデータを集める方法です。 

また、宇宙食の研究にも取り組んでおり、将来の有人宇宙飛行や月・火星移住を想定したライフサポートシステムの開発を進めています。例えば、ハーブや昆虫を活用した宇宙食の研究も行っています。宇宙では食材の保存や栄養管理が非常に重要なので、単なる食事の確保ではなく、「食べることで健康を維持し、病気を防ぐ」視点が求められます。 

さらに、平衡機能に関する研究も行っています。具体的には、宇宙酔いを耳石・三半規管への影響で調べる研究で、重心動揺検査や眼振検査、前庭誘発筋電位検査(VEMP)などを活用し、宇宙飛行士が無重力環境でどのような影響を受けるのかを調べています。 

— 宇宙食の研究だけでなく、人体への影響まで幅広く研究されているのですね。 

片山先生:
そうですね。宇宙では地球上とは異なる環境で生活しなければならないため、食事だけでなく、人間の生理的な反応まで包括的に研究する必要があります。宇宙空間で健康を維持することは、人類が将来、宇宙で長期滞在するための重要な要素なんです。 

「つまらない」から始まった、新たな道 

— 先生のキャリアはとてもユニークですが、最初は工学を学ばれていたんですよね? 

片山先生:
私はまず北見工業大学工学部環境工学科を卒業して、その後東京工業大学大学院の研究生となりました。そこから研究の道に進むことになり、水処理会社の栗田工業総合研究所の研究員として働きました。でさらにその後、東京女子医科大学で研究助手をしていました。 

でも、途中で結婚をして、東京から名古屋に引っ越すことになったんです。それで、いったん主婦になったんですが……つまらないじゃないですか?(笑) 

— なるほど(笑)。そこから料理の道に? 

片山先生:
そうなんです。「せっかくだから料理でも覚えようかな」と思って、調理師学校に入ったんです。でも、前期が終わった頃に、主人が突然「アメリカへ行くぞ」と言い出しまして。「え? ちょっと待って、 本当に行くの?」って驚きましたよ。でも、結局ついて行くことにしたんです。 

それで、主人はカリフォルニア大学デービス校(UC Davis)に行くことになりました。 

でも、ここでまた問題が。「ただついて行くだけって、どうなの?」と思いましてね。それで、TOEFLを受けて、私もカリフォルニア大学デービス校で学ぶことになったんです。 

カリフォルニア大学デービス校での衝撃 

— すごい行動力ですね! そこでは何を学ばれたんですか? 

片山先生:
もともと私は工学系だったので、カリキュラムを組んでくれる先生と相談しました。すると、「あなた、化学と物理ばっかりですね。生物は?」と聞かれました。「生物、やったことないです」と答えたら、「でもデービスはアメリカでもトップクラスの栄養学の学校ですよ?」と言われて。 

そこで、「それは面白いですね!」と、栄養学を学ぶことにしました。ちょうど私は日本の調理師学校にも通っていましたし、料理と栄養は関係が深いですからね。でも、生物系の基礎知識がまったくなかったので、生化学、生理学、遺伝学、動物学などもゼロから学びました。実験の授業も取って、獣医学の学生とも仲良くなりました。 

年齢も立場も関係ない、「学びたい人が学ぶ」環境 

2

— アメリカの大学って、日本と雰囲気が違いそうですね? 

片山先生:
全然違いますね! 日本では「18歳で大学に行く」のが一般的ですが、アメリカでは「働いてお金を貯めてから大学に行く」のも普通なんです。 

例えば、50歳のお母さんと20歳の娘さんが親子で大学に通っていたり、逆に16歳や17歳の飛び級の学生もいたりして、本当に年齢がバラバラでした。お母さんに「なぜ今、大学に?」と聞くと、「若い頃は学びたくても働かなくちゃいけなくて。でも娘も自立したから、今度は私の番」と言っていて。すごいなぁと思いました。 

先生も「年齢なんか関係ない、大学は知を求める人のための場所だ」と言っていて、それがすごく印象に残っています。 

「あなたの宗教は?」から始まる栄養学の授業 

— 先生が学ばれた栄養学の授業、特に印象に残っているものはありますか? 

片山先生:
ありますよ! 一番最初の授業で、先生がこう言ったんです。 

「あなたの宗教は何ですか?」 

— え? 栄養学なのに、宗教ですか? 

片山先生:
そうなんですよ。私も最初、「えっ?」と思いました。でも、先生の説明を聞いて納得しました。 

「食べていいもの、ダメなものは宗教によって違う。だから、まず自分の宗教について調べなさい。食文化や調理方法も含めて、レポートを書いてきなさい」って。 

私はそこで初めて「自分の宗教って何?」と考えました。でも、日本人って、お正月は神社に行くし、七五三やひな祭りもやるし、お盆もやる。でもクリスマスも楽しむ。ある意味「何でもウェルカム」なんですよね。 

それをアメリカのクラスで発表したら、「日本人はなんて自由なんだ!」ってびっくりされました(笑)。「え? 食べちゃダメなもの、何もないの?」って。そう考えると、日本の食文化ってすごくユニークなんですよ。 

「災害時に持っていくべき食事」とは? 

3

片山先生:
宗教の話が終わると、次の課題が出ました。 

「今、ある国で災害が起こった。あなたは何を食料として持っていきますか?」 

これが意外と難しいんです。食べ慣れていないものは、どんなに栄養価が高くても受け入れられません。先生が言ったのは、 

「ユニバーサルな食事が必要だ」 

ということ。 

つまり、宗教的な制約がなく、アレルギーのリスクが低く、誰もが一度は食べたことがある食べ物でなければいけない。そうでないと、せっかく持って行っても、現地の人は手をつけないし、ただのゴミになってしまうんです。 

例えば、海苔なんて、海外の人は見たこともないし、食べようともしませんよ。だからこそ、「国や文化を考えたうえで食事を提供する」ことが大事なんだと学びました。 

「好きな食べ物を3ヶ月間禁止する」実験 

— 他にもユニークな授業はありましたか? 

片山先生:
ありましたよ! ある授業で先生がこう言ったんです。 

「この3ヶ月間、あなたの一番好きな食べ物を絶対に食べないでください。もし食べてしまったら、正直に申告すること」 

私は大のチョコレート好きなので、「チョコレートを禁止します」と宣言しました。最初は順調だったんですが……ある日、すでにこの実験から脱落していた友人たちとパーティーをしていたときに、うまく誘導されてしまって…。気がついたらチョコレートを口に入れてしまっていたんです。 

次の授業で「先生、すみません、チョコレートを食べてしまいました」と正直に申告しました。すると、先生は大笑いしながらこう言ったんです。 

「良かったね! ほら、やっぱり好きなものを禁止するなんて無理でしょう?」 

— なるほど……! 

片山先生:
そのとき、先生は続けてこう言いました。 

「あんた、きっといい栄養士になるよ」 

私はその言葉がすごく印象に残っています。食事というのは、単なる栄養の摂取ではなく、人の心にも大きく影響を与えるものです。「好きなものを食べてはいけない」と絶対に制限するのは、誰にとってもつらいことなんだと、身をもって知りました。 

だからこそ、私は「どうやったら好きなものを楽しみながら、健康的に食べられるか」を考える栄養学を研究したいと思うようになったんです。 

宇宙飛行士との出会いと宇宙医学研究への転機 

4

— アメリカでの研究を経て、日本に戻られてからはどのような道を進まれたのでしょうか? 

片山先生:
アメリカから戻ってきた当時、私の夫が名古屋大学の農学部で准教授になったこともあり、自然と名古屋大学で学び直すのが良いのではと思いました。そこで医学部に行き、「修士や博士の学位を取得できますか?」と相談したんです。すると、「医学部には修士課程がないから、博士を目指すならまずは修士をどこか別の大学で取っておいで」と言われました。 

そこで、岐阜大学の農学部 に進みました。農学部といっても、宇宙関連の研究ができる環境が整っていたんです。そこでは、「リチウムを使った二酸化炭素のトラップシステムに関する研究を行い、最終的にラットを使った動物実験でリチウム(宇宙船の中で揮発して呼吸を通して体内に入ってしまう可能性がある)の人体への影響を調べました。その結果、リチウムが生殖機能や臓器に与える影響を明らかにし、国際学会で発表したことで修士号を取得しました。 

その後名古屋大学医学部の環境医学研究所宇宙医学実験センターに移り、博士課程に進むことになりました。ここで私の研究は一気に宇宙医学へとシフトしていくことになります。 

— 具体的にはどのような研究をされていたのでしょうか? 

片山先生:
名古屋大学の宇宙医学実験センターは、日本の宇宙医学研究の中心地の一つでした。特に「宇宙酔い」に関する研究が盛んに行われています。宇宙酔いとは、無重力環境で耳石・三半規管・体性感覚のバランスが乱れることで起こる症状のことです。この研究に携わることで、私は宇宙飛行士の生理学的な課題について深く学ぶことができました。 

実際に、当時の日本の宇宙飛行士 たちも研究の協力者として訪れていました。その中には現在も活躍されている方々がいて、彼らの協力のもと、人間の耳石の変化を眼振を測定することで調べる実験を行いました。 

名古屋大学の施設には「直線加速度負荷装置」という、日本で最も大きな実験設備があります。これは、宇宙における加速度変化を再現する装置で、ここで得られたデータが宇宙医学の重要な研究成果として蓄積されていきました。こうした環境の中で、私は人間の生理機能が宇宙環境でどう変化するのかを研究していったのです。 

パラボリックフライトへの挑戦 

— 宇宙医学の研究では、実際に微小重力環境を体験する機会もあったのでしょうか? 

片山先生:
はい、パラボリックフライト(放物線飛行) にも参加しました。これは、飛行機を急上昇させた後、エンジンを切って自由落下させることで、約20秒間の無重力状態を作り出す実験です。 

通常、この飛行を1回の実験で15回ほど繰り返すのですが、多くの人は気分が悪くなります。実際、他の研究者たちはフライトの後、ぐったりしてしまい食事も取れない状態でした。でも、私はまったく酔わなかったんです 

飛行後、パイロットと一緒に「お腹すきましたね!」と言いながら、普通にご飯を食べていました(笑)。パイロットからも「本当に酔わないんですね」と驚かれましたね。この経験から、「もしかしたら私は宇宙向きの体質かもしれない」と思ったくらいです。 

こうした経験を通して、宇宙における人間の生理的変化に対する興味がますます深まりました。最初は「栄養学」から入った研究でしたが、最終的に「宇宙」へと広がっていったんです。 

宇宙食研究への道 

— 宇宙酔いや平衡機能の研究から、宇宙食の研究へと発展していったのですね? 

片山先生:
はい、宇宙医学の研究を進める中で、「人間が宇宙で健康に生きるためには何が必要か」を考えるようになりました。宇宙酔いの研究では、無重力が身体に与える影響を調べていましたが、それと同じくらい重要なのが「食事」だったんです。 

宇宙飛行士は長期間、限られた食材や環境の中で生活しなければなりません。すると、栄養バランスを考えるだけでなく、心理的な側面も考慮する必要があります。たとえば、宇宙食に飽きてしまうと、食欲が落ち、結果として体調を崩してしまうこともあります。そこで、ただ栄養価の高い食事を提供するだけでなく、「美味しく、飽きがこず、文化的背景も考慮した宇宙食」が求められるようになりました。 

— その視点は、先ほどの「災害時のユニバーサルな食事」にも通じるものがありますね。 

片山先生:
まさにそうなんです! アメリカの授業で「宗教や文化を考えずに食事を提供しても受け入れられない」と学びましたが、それは宇宙でも同じです。たとえば、イスラム教の宇宙飛行士が食べられるように「ハラール対応」の宇宙食を作るなど、細かな配慮が必要になります。 

宇宙食の開発と未来への展望 

— 先生の研究では、どのような宇宙食の開発を行っているのですか? 

片山先生:
現在、ハーブや昆虫を活用した宇宙食の研究を進めています。特に、宇宙空間での食糧生産を考えると、「自給自足できるシステム」が求められるようになります。そのため、宇宙での植物栽培や、栄養価の高い昆虫食の可能性を探っています。 

また、単に食べるだけでなく「食事によって健康を維持し、病気を予防する」ことも大切です。例えば、以下のような研究を進めています。 

  • 骨密度低下を防ぐ食事(カルシウムの吸収を助ける食材の研究) 
  • 高血圧予防のための減塩食(香草や薬草を利用した減塩メニュー) 
  • 高血糖を防ぐ食事(食物繊維の多い食品や、お酢・良質な油を活用) 
  • 時間栄養学に基づいた食事のタイミング(代謝リズムに合わせた食事摂取) 

宇宙飛行士が単に「生きるために食べる」のではなく、「食事によって健康を維持できる」ようなシステムを作ることが目標です。 

未来の宇宙食人類の宇宙進出を支える食文化 

— 今後、先生が目指している宇宙食の未来とは? 

片山先生:
私の研究の最終的な目標は、「医食同源」の考え方を宇宙で実現することです。宇宙での食事によって、健康が維持され、病気の予防や治療まで可能になるようなシステムを構築したいと考えています。 

また、宇宙食の研究は、地球上の食糧問題の解決にもつながります。例えば、長期間保存できる食品技術は、災害時の備蓄食や、食料不足の地域への支援にも応用できます。さらに、栄養価の高い昆虫食の開発は、未来のタンパク源として地球規模で役立つ可能性があります。 

高校生へのメッセージ「好き  」を突き詰めることが未来につながる 

5

— 最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。 

片山先生:
私は、もともと工学からキャリアをスタートさせ、栄養学、医学、宇宙研究と、さまざまな分野を経て今に至ります。振り返ってみると、すべては「好き」や「面白い」と思ったことを突き詰めてきた結果なんです。 

だから、高校生のみなさんには、まず「好きなことを見つけて、それをとことん追求してほしい」と伝えたいですね。大学や研究の世界は、思っている以上に自由です。実際に研究室を訪れたり、先生に話を聞きに行ったりすれば、新しい発見があるかもしれません。 

「こんなことを研究したい!」という気持ちがあれば、必ずどこかにその道があります。大学の先生たちは、学問を求める人たちのために門戸を開いています。勇気を持って、一歩踏み出してみてくださいね。 

まとめ 

今回のインタビューを通じて、片山先生が歩んできた多彩なキャリアと、工学、栄養学、宇宙医学といった一見異なる分野が融合することで生み出される新たな可能性が明らかになりました。 

先生の情熱と実践的な研究姿勢は、大学での学びが単なる知識の習得にとどまらず、実生活や未来の技術革新にまで影響を及ぼすことを示しています。 

高校生の皆さんには、自分の「好き」を大切にし、未知の世界に果敢に飛び込む勇気を持ってほしいと、片山先生は力強くメッセージを送っています。 

大学は、自分の興味や夢を追求し、未来への扉を開くための貴重な場所であることを、今回のインタビューから改めて感じ取ることができました。 

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