「電気はコンセントから来るもの」——そんな当たり前の考え方を、根本から変えてみませんか?
私たちの生活に欠かせない電気。しかし、その仕組みを深く理解し、エネルギーを「自分でつくる」ことを考えたことはありますか? 上坂先生は、小水力発電という再生可能エネルギーの研究を通じて、地域社会とエネルギーの自立を結びつける挑戦を続けています。
実は、研究の道は意外なところから始まることもあります。先生自身も、生物学から情報学、そしてエネルギー研究へと進み、多様な視点を活かしてきました。学問の世界は一つの道だけではなく、交差し、広がり、思わぬ発見につながるものです。
「自分の興味はどこにあるのか?」そんな問いを持つ高校生に向けて、本記事ではエネルギーの未来、研究の面白さ、そして進路を考えるヒントをお届けします。あなたの「学びたい」を刺激する一歩になるかもしれません。
上坂先生の研究と小水力発電の可能性
小水力発電とは?
―― 先生のご研究について、高校生向けに簡単にご紹介いただけますか?
上坂先生:
私の研究テーマは、小水力発電を活用した地域づくりです。小水力発電とは、川や用水路などの流れを利用して電力を生み出す、比較的小規模な発電方式のことを指します。これは、いわゆる再生可能エネルギーの一つで、地域の資源を有効活用しながらエネルギーの自給自足を目指すものです。
―― さまざまな発電方法がある中で、なぜ小水力発電を研究されているのでしょうか?
上坂先生:
発電所の出力にはさまざまな規模がありますが、私たちが扱っている小水力発電は「1000kW未満」のものを指します。これは、世帯数でいうと1000世帯から1500世帯程度の電力を供給できる規模です。たとえば、山間地の比較的大きな集落や、地域コミュニティ全体に十分な電力を供給できる可能性があります。
小水力発電の魅力は、地域に根ざした発電ができる点にあります。地域の水資源を活かして発電することで、エネルギーの地産地消が可能になり、結果として地域経済の活性化にもつながります。さらに、持続可能なエネルギーの供給を実現することで、地域住民の生活の質の向上や、新しいビジネスの創出にも貢献できるというわけです。
地域との密接な関わり
―― 先生の研究やゼミの活動では、地域とのつながりが強い印象を受けました。具体的にどのような形で地域と関わっているのでしょうか?
上坂先生:
富山県は、日本でもトップクラスの水資源を持つ地域です。特に「豊富な水量を持ち、経済的にも活用できる水力資源」が多く存在します。岐阜県や長野県も同様に水力資源が豊富な地域ですが、すでに大規模な水力発電所が開発されています。一方で、小規模な水力資源はまだ十分に活用されていません。
たとえば、富山県には大小さまざまな川や用水路が流れていますが、多くは発電には使われず、そのまま流れている状態です。しかし、こうした小さな水流も適切に利用すれば、地域のエネルギー源として十分な価値を持ちます。私の研究では、こうした未活用の水力資源を活用し、小規模な水力発電所を設置することで、地域の電力を自給できる仕組みを作ることを目指しています。そのために学生と一緒に地域に出かけて、地域の人たちと協力して調査を進めているというわけです。
―― 小水力発電によるエネルギー供給の対象となる「地域」とは、具体的にはどのような規模を想定されているのでしょうか?
上坂先生:
私たちが想定しているのは、数百世帯規模の地域です。具体的には、農山村の集落、地方都市の周辺住宅地、さらには観光地など、さまざまな地域で活用できる可能性があります。
たとえば、200世帯から300世帯が暮らす地域に小水力発電を導入すれば、その地域のエネルギー自給率を向上させることができます。また、発電によって生まれる経済的なメリットを地域に還元することで、地域活性化にもつながります。このように、小水力発電は単なる電力供給の手段ではなく、経済的に地域社会を支える大きな要素になり得るのです。
―― 地域の資源を活かした持続可能な発電が、地域の活性化にもつながるということですね。
上坂先生:
はい。小水力発電は、地域の人々が自らの手でエネルギーを生み出し、それを活用することで、地域の未来を切り拓く力を持っています。日本にも昔はそういう地域がたくさんあったんですよね。こうした取り組みを通じて、地域の課題を解決しながら、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
小水力発電研究への道のり
生物学からエネルギー研究へ
―― 先生が小水力発電の研究に進まれたきっかけについて教えてください。
上坂先生:
実は、私はもともと生物学を専門にしていました。大学院では基礎生物学を研究し、社会との直接的なつながりを意識することはほとんどありませんでした。その後、研究職には進まず、富士通に就職して約10年間、コンピューターや情報科学の分野で働きました。そこから大学に戻ることになり、富山国際大学で情報学の教員として着任したんです。
そんな中、2005年ごろにある先生から「富山県には水資源が豊富だから、小水力発電の研究をやってみたらどうか?」と提案されました。最初は「なぜ情報学の私が水力発電を?」と戸惑いましたね。でも、調べてみると富山県は日本でもトップクラスの水資源を誇り、しかも未活用の小規模な水力が数多く存在していることがわかりました。
情報学の視点からでも、地域のエネルギー管理やデータ分析といった形で貢献できる部分があると気づき、思い切って研究を始めてみることにしたんです。結果として、小水力発電は単なる技術研究ではなく、地域の活性化や経済効果にもつながる非常に面白い分野だと実感しました。
社会との接点を持つことの大切さ
「やりたいこと」は経験の中で見つかる
―― とても面白いキャリアを歩まれている上坂先生ですが、例えば高校生から「やりたいことが見つからない」と相談をされたらどのように答えますか?
上坂先生:
私は、やりたいことは「自分の経験の中からしか出てこない」と思っています。ほとんどの高校生は、家と学校を往復する生活の中で、受験勉強に励んでいます。でも、それだけでは、自分が本当に興味を持つことや、社会で求められていることを知る機会が少ないんですよね。
だからこそ、積極的に社会と関わることが大切です。たとえば、地域活動に参加する、街中の講演会に足を運ぶ、一人旅をしてみるなど、新しい経験をすることで、初めて「自分はこういうことに関心があるんだ」と気づくことができます。
私は大学生には「海外に行け」とよく言っています。海外に行くと、圧倒的に日本の日常とは違う価値観や文化に触れ、自分がどれほど知らないことが多いのかを痛感します。まずパスポートを取る、飛行機に乗る、それだけでも日本では経験できない学びがあります。そして、現地で言葉が通じず苦労することで、「だから英語を勉強するんだ」と実感するんですよね。
―― まずは様々なことを身近に感じるステップが必要、ということですね。
「電気は自分で作れる」ことを知る
―― では、先生の研究分野であるエネルギーについて、高校生が身近に感じられるような具体的な取り組みはありますか?
上坂先生:
富山県には、たくさんの用水路があり、年中水が流れています。高校生の中にも「用水路を使って発電できないか」と相談してくる生徒がいます。そういった生徒と一緒に簡単な水車を作り、実際に発電実験をすることもあります。
このとき、必ずと言っていいほど、高校生たちは「電気って意外と簡単に作れるんですね」と驚きます。これは私にとって、とても嬉しい瞬間です。というのも、電気やエネルギーについて、ほとんどの人が「コンセントに差し込めば使えるもの」としか考えていないからです。
私の大学の学生でも、「家庭に来ている電気の電圧は何ボルト?」と聞くと、8割くらいの学生が答えられません。それほど電気の仕組みについて無関心なのが現状です。でも、ちょっと知識があれば、たとえば災害時に「携帯の充電なら太陽光でできる」と気づくことができる。30cm四方の太陽光パネルが1枚あれば、スマホの電源に困ることはないんです。
「電気は自分で作ることができる」。このことに気づいてもらうことが、私の教育の大きな目的の一つでもあります。
「電気の刺身化」への警鐘
―― 確かに、普段生活していると「作る」ということに意識が向かず、「電気は当たり前にあるもの」という意識が強いですよね。
上坂先生:
そうなんです。私はこれを「電気の刺身化」と呼んでいます。スーパーに並んでいる刺身を見て、その魚がどんな姿で泳いでいたのかを想像できないのと同じで、電気もどこでどのようにして作られてどうやって家庭まで来ているかなんてどうでも良くて、「コンセントに差し込めば使えるもの」としか認識されていないと思うんです。
その結果、停電になったときに「電力会社に電話する」くらいしか対策を考えられない。ですが、電気の仕組みを少し知っていれば、例えば太陽光発電や小水力発電で電気を自給することも可能だと分かるはずです。
高校生には、まず身近なところからエネルギーに興味を持ってほしいですね。たとえば、街中の電柱に耳を当ててみると、ブーンという音が聞こえます。これは、電気が流れる音なんです。「え?電気の音?じゃあその正体は何?」。こんな小さな気づきが、エネルギーへの関心につながるのではないでしょうか。
―― 実際に体験しながら学ぶことで、社会とのつながりやエネルギーの大切さを実感できそうですね。
上坂先生:
そう思います。エネルギーや電気は、生活の基盤を支える大切なものです。高校生の皆さんには、ぜひ身の回りの仕組みに目を向け、自分の手で体験しながら学んでいってほしいですね。
デンマークのエネルギー政策と学び
― ところで、先生はデンマークへ学生を連れて行かれるとお聞きしました。デンマークは電力に関しては先進的なイメージがありますが、学生たちはどのようなことを学んでいるのでしょうか?
上坂先生:
デンマークは風力発電の先進国で、1972年のオイルショックをきっかけに、エネルギー自給率を2%からわずか25年で100%にまで高めました。その後、2005年頃には150%を超え、エネルギー輸出国になっています。この驚異的な変化の背景を学ぶために、学生たちを連れていきます。
デンマークでは風車があちこちに建てられており、それがどのようなプロセスを経て普及したのかを現地で学びます。また、環境先進国としても知られ、ゴミの分別は45種類にも及びます。それでも国民が嫌がらずに分別するのは、環境教育がしっかりと行われているからです。こうした国民意識の違いも学ぶ重要なポイントです。
また、日本では「燃えるゴミ」として処理されるものが、デンマークではすべて火力発電に回されます。さらに、イギリスやドイツから燃えるゴミを買い取り、それを燃料にして発電し、その電力を再び売るという、経済的にも合理的な仕組みを持っています。このような循環型社会の実態を学生たちに体験させるのが目的です。
― 実際に体験することで学生はよりより多くの興味関心を持てそうですね!
小水力発電の魅力と地域再生への可能性
― 先生が研究を続けてきた中で感じる、この分野の最大の魅力は何でしょうか?
上坂先生:
小水力発電の研究は、最先端技術のような派手さはないかもしれません。しかし、この研究の本当の魅力は、「地域を元気にすること」にあります。
日本の多くの地方が、少子高齢化や人口減少により衰退していく中で、特に山間地域では集落が縮小し続けています。こうした地域がなくなると、河川管理が難しくなったり、水源地が適切に管理されなくなったりと、深刻な影響が出ます。また、最近では外国資本が日本の山林やスキー場を買収し、独自の開発を進めるケースも見られます。そうなると、河川の上流側が他人の手に渡るわけですから、大切な水源地域の環境保全が疎かになり、水質悪化などの問題も発生してしまうのです。
小水力発電は、こうした地域に「経済的な利益」と「希望」をもたらす力を持っています。たとえば、100人規模の集落で年間3000万〜4000万円の収益が生まれるとなれば、それだけで地域の経済が大きく変わります。そして、収益が出ると「次に何をしようか?」と地域の人々が考え始め、町おこしや新たな事業の展開へとつながっていくのです。
この「地域が活性化していく姿」を見ることが、私にとって最大の喜びです。さらに、小水力発電は一度設置すれば50年、長ければ100年動き続けるものです。自分が立ち上げたプロジェクトが、50年後、100年後にどうなっているのかを想像すると、本当にワクワクします。
― 小水力発電以外にも、地域によって適した再生可能エネルギーは異なるのでしょうか?
上坂先生:
その通りです。小水力発電は、水が豊富で山が多い地域に適しています。例えば富山県や岐阜県、長野県などですね。
しかし、関東平野のように冬は晴天が多く、山が少ない地域では、太陽光発電の方が向いています。また、海沿いで強い風が吹く地域では、風力発電が適しているでしょう。再生可能エネルギーは、その土地の地形や気候条件に大きく影響されるため、それぞれの地域に適した方法を選ぶことが重要です。
高校生の皆さんも、自分の住んでいる地域にどんな特性があるのかを考え、「この土地ならどんなエネルギーが活用できるのか?」と想像してみると、面白い発見があるかもしれませんね。
持続可能な社会を目指して
― 先生の研究を通じて、日本の未来にどのような影響を与えるとお考えですか?
上坂先生:
日本は現在、使用するエネルギーの約85%を海外からの輸入に頼っています。これは、国際情勢の変動によって大きな影響を受けることを意味します。例えば、原油価格の高騰や為替の変動によって、私たちの生活や経済が左右されてしまうのです。加えて、 CO₂排出量の削減という課題もあり、2050年のカーボンニュートラル達成が求められています。
そのため、再生可能エネルギーの開発は必須です。特に、地域ごとに適したエネルギー資源を活用し、自給自足の仕組みを作ることが重要になります。例えば、山間部では小水力発電、日照時間の長い地域では太陽光発電、海風の強い沿岸地域では風力発電が有効です。
私は、このような地域ごとの特性を活かしながら、持続可能なエネルギー供給システムを確立し、地域の自立を支援していきたいと考えています。
高校生へのメッセージ
― 進路を考える高校生へ向けて、どのようなアドバイスがありますか?
上坂先生:
進路を考える上で大事なのは、「やりたいこと」を探すことですが、それがすぐに見つかる人は少ないものです。ですので、大学を選ぶ際には、学部名や偏差値だけでなく、どんな先生がいるのか、どんな研究が行われているのかを調べることが大切です。
また、進路は一度決めたら終わりではなく、専門は変えられるし、やり直しはいくらでもできます。ですから、いろいろな事にチャレンジしてみて「没頭できるものを一つ見つける」という姿勢を持ってほしいですね。
― 大学で学ぶ前に、高校生のうちに身につけておくべきことはありますか?
上坂先生:
大学では「コミュニケーション力」が求められますが、それは単に話せることではなく、「話したいこと」「聞きたいこと」を持つことが重要です。そのためには社会に出て、多くの経験を積むことが必要です。例えば、自分の住んでいる地域をもっと知ることも大切です。観光地や歴史的な場所を訪れたり、地域の課題を自分の目で確かめたりすることで、新しい興味や疑問が生まれます。
また、特にエネルギーや環境の分野に興味があるなら、高校で学ぶ物理や化学の知識は欠かせません。水力発電には流体力学や電気の基礎知識が必要になりますし、社会学の中でも理系の知識が求められる場面が多々あります。文系だからといって理科を軽視せず、基礎的な知識をしっかり身につけておいてください。
― 先生の専門である環境やエネルギーの分野には、どのような人が向いていると思いますか?
上坂先生:
この分野では、地域の人々の気持ちを理解できることが大切です。例えば、地域の公共交通を研究している学生は、家族の経験から「高齢者が移動手段に困っている現状」に関心を持ち、研究に没頭しています。実体験に基づいた問題意識があると、より深い研究ができるのです。
また、エネルギーに関する研究には計算能力も必要です。水力発電の効率を考えるには、物理学の知識が欠かせません。社会学の分野でもデータを扱う場面は多いため、「文系だから数学や物理は不要」という考えは通用しません。
最後に、社会を支える基礎的な知識を持つことが、今後ますます重要になります。例えば、電気の仕組みを知らなければ、エネルギー政策の問題点も理解できません。水素自動車が普及するにしても、その安全性や取り扱いの難しさを知らないと、適切な判断ができません。
私の授業では「エネルギーリテラシー」という言葉を使っていますが、これは単に技術を知ることではなく、社会で必要とされる知識を身につけることを意味します。日本では理系科目を敬遠する傾向がありますが、高校1年ぐらいまでの理科や数学の知識は社会を理解する上で不可欠なんです。と言うか、世の中は文系か理系だけでできているわけじゃないですよね。「理系の科目を簡単に捨てないで!」と声を大にして言いたいですね。
これからの未来を担う高校生の皆さんには、広い視野を持ち、社会の問題を自分ごととして考えられるようになってほしいと思います。
まとめ
上坂先生の研究は、単なる発電技術の開発ではなく、地域の活性化やエネルギーの自立を目指すものです。小水力発電は、地域の資源を有効活用しながら、持続可能な社会を築く鍵となる技術です。
先生ご自身のキャリアも、生物学から情報学、そしてエネルギー研究へと広がり、研究とは予期しない出会いから生まれることを示しています。このように、自らの興味や得意分野を活かしながら、社会に貢献できる道を模索することの大切さが伝わってきます。
やりたいことは、経験の中から見つかるというお話も印象的です。失敗がないことが失敗、とはよく言いますが、ぜひ高校生の皆さんもたくさんの失敗を進んで経験し、良い進路につなげていきましょう!